研究課題
今年度は、ディケンズが『荒涼館』で描いた男性らしさについて考察した。この考察では、男性らしさとはそれ自体で存在するものではなく、女性らしさとの差異でしか表現されないものであることを明らかにした。同時に、そのような男性らしさをイギリス社会の中で身につけ、表現するのは困難だったことも明らかにした。その原因として、当時のジェンダー・イデオロギーには、女性を道徳的存在として定義づけ、それによって彼女たちを家庭内に束縛しようとしていた一方で、それが逆に彼女たちの存在に社会的意義と社会的権力を与えることになったという矛盾があったことを指摘した。さらに今年度は、『大いなる遺産』の研究も行った。この研究では、ヴィクトリア朝中期の男性らしさの問題と大きく関わるジェントルマンの問題を考察し、ディケンズにとってのジェントルマンの定義を明らかにしようとした。上記の研究により、ディケンズの後期小説における男性らしさの定義とその形成に果たす帝国周縁部の役割について、その一端を明らかにできた。また、ディケンズの後期小説が描きだす男性らしさの定義を解明するには、小説における帝国周縁部の役割以外の事柄にも注目し、より広範な視野で研究を進めるべきであるという今後の方針も分かった。今年度は、上記の研究を行うために、夏に大英図書館でヴィクトリア朝時代の雑誌や新聞記事を中心に資料収集を行った。『荒涼館』の研究成果は、"The Hero Out of the Home in Bleak House: Dickens's Perceptions on Masculinity and Domestic Ideology"『中国四国英文学研究』(『英文学研究支部統合号』)第15号(第11巻)) 13(289)-23(299)で発表した。『大いなる遺産』については、研究成果発表の論文を執筆中である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件)
『中国四国英文学研究』(『英文学研究支部統合号』)
巻: 第15号(第11巻) ページ: 13(289)-23(299)
『ギャスケル論集』
巻: 28 ページ: 95 -102