研究課題/領域番号 |
16K16792
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
貞廣 真紀 明治学院大学, 文学部, 准教授 (80614974)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 環大西洋研究 / メルヴィル / ホイットマン / ソロー / アメリカン・ルネサンス |
研究実績の概要 |
本研究は、19 世紀末イギリスで複数の社会主義組織がアメリカン・ルネサンス期の作家を積極的に評価して運動に取り込んだことに着目し、当時の環大西洋文学交流の性質と意義を検証するものである。H29年度は渡英調査を行い一次資料質の収集と分析につとめたほか国内外の学会で研究成果を発表した。具体的には、5月、ナサニエル・ホーソン協会全国大会で、イギリス社会主義運動におけるアメリカ文学のリバイバル現象について口頭発表を行った。内容を加筆修正し『知のコミュニティ』(2019年出版)に寄稿した。6月、第11回メルヴィル国際大会において、メルヴィルの晩年とイギリス社会主義の関係について発表を行った。加筆・修正を施した論文を米国メルヴィル学会会報Leviathanに寄稿した(修正段階、2019年に掲載予定)。9月、エジンバラナショナルライブラリー及び大英図書館で、ジョン・マリー社のアーカイブ及び社会主義機関紙の調査を行った。成果の一部を日本メルヴィル学会全国大会シンポジウム「イギリスとメルヴィル」で発表した。11月、PAMLAにおいて、海洋国家アメリカの発展と再建期のホイットマンの詩の関係について口頭発表を行い、ホイットマン後期作品を英米関係の中に捉え直すことに貢献した。発表原稿は修正の後、『海洋国家アメリカの文学的想像力』(2018)に寄稿した。2018年3月、明治学院大学言語文化研究所主催のシンポジウムにおいて、世紀転換期の英米の出版状況と文学史の形成について口頭発表を行った。ほか、2018年5月開催のTransatlantic Walt Whitman Association主催のWhitman Weekのセミナー及びシンポジウム、6月開催のInternational Hawthorne and Poe Conferenceのプロポーザルを提出し、発表を許可された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H29年度は5回の口頭発表(国内3回、海外2回)を行い、ここまでの研究成果を論文にまとめ、また、H30年度の発表に向けて準備作業を行った。研究計画の遂行と成果の公開を非常に順調なペースで進めることができている。当初の計画では英米文学交流についてのリサーチは1年を予定していたが、2年目に行った口頭発表で多くのフィードバックを得られたため、計画以上にテーマを掘り下げ、世紀末の環大西洋交流の状況を多角的に分析することが可能になった。具体的には、イギリスの大出版社ジョン・マリー社とハーマン・メルヴィルとの関係、E. C. ステッドマンを中心に進められた文学批評の形成と国際著作権法にまつわるアメリカでの議論、アメリカ文学史の確立の事情について一次資料の収集を行い、踏み込んだリサーチを行うことができた。それによって、個別の作家や作品だけでなく背景の詳細を明らかにし、20世紀中庸のF. Oマシーセンの批評につながる文学史形成の大局的な見取り図を描くことができた。当初の計画で3年目に予定していたアメリカン・ルネサンス再評価とセクシュアリティ言説の関係についても今年度の研究では並行して考察することができた。研究の進行は極めて順調であり、このまま最終年度の研究及び成果公開につなげていく。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は研究の最終年度にあたるため、研究を発展させるのと並行して成果発表を行う。内容的には特に、英米の批評交流を通じて形成される「アメリカ」と「アメリカ文学」像を、フランス文化の影響を踏まえて重層的に考察する。ウイリアム・ディーン・ハウエルズが再建期以降のフランスの重要性を強調しているように、アメリカの批評家や作家たちは、イギリスと競合しながら「アメリカ文学」を確立する際、オルタナティブとしてフランスにその根拠を求めた。今年度の研究では、英米仏3ヶ国における批評空間がいかに連動し、拮抗しながらアメリカン・ルネサンス作家の再評価を準備していくのか、その過程を分析していく。具体的には、エドガー・アラン・ポー再評価における英米仏の文学史的な競合関係について議論を6月の学会発表に向けて整理し、発表を行う。とりわけアメリカの批評が英米に遅れてポーをアメリカのキャノンに組み込む際に何を重視し強調したのか、20世紀批評F. O. マシーセンの論理と比較する。また、6月に参加予定のWalt Whitman Weekセミナーとシンポジウムはホイットマンのトランスナショナルな受容がテーマであり、また、フランス文化のホイットマンへの影響を論じたBetsy Erkilla氏の参加も予定されている。本研究について、ヨーロッパ及びアメリカの研究者と意見交換を行う機会としたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
H29年度は、29年度予算と28年度からの繰越しを合わせて使用し、資料購入と2回の渡英(国際学会発表及びリサーチ)と1回の渡米(国際学会発表)を行うことができた。H29年度の残額1304円はH30年度予算と合わせて、H30年度の国際学会参加旅費及び資料収集予算に当てる。
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