本研究は19 世紀末のイギリスで複数の社会主義組織がアメリカン・ルネサンス期の作家を積極的に評価して運動に取り込んだことに着目し、環大西洋文学交流の性質と意義を検証するものである。最終年度は検証の対象となる時空間を拡張し、大局的な視野から環大西洋空間を考察するように努めた。研究成果については以下のように公表を行なった。6月、ドイツで開催されたトランスアトランティック・ホイットマンセミナーに参加してヨーロッパや中東におけるホイットマンの受容について学ぶと同時に、シンポジウムでは、日本の近代化の過程においてイギリス経由でホイットマンの受容が行われたことの意味とその影響について論じた。同じく6月、国際ポー&ホーソーン学会に参加し、19世紀後半に本格化したポーのアメリカにおけるリバイバルが当時イギリスで始まったケルト・リヴァイバルとどのような関係にあったかについて口頭発表を行なった。9月、日本ナサニエル・ホーソーン協会東京支部会にて、メルヴィルの小説『白鯨』の1954年の映画アダプテーションが冷戦を背景にアイルランドで製作されたことの意義とその影響について論じた。11月、アメリカで開催されたPAMLAに参加し、イギリスを舞台にしたメルヴィルの小説『ビリー・バッド』がイギリスでどのように舞台化、映像化されてきたのかを比較検証した。1月、神奈川大学にて講演を行い、世紀転換期の英米「文化人」の大西洋をまたにかけた活動とその影響について論じた。また、本研究の成果の中心となる論文ーーイギリス世紀末における<アメリカン・ルネサンス>の形成についてーーを共著『繋がりの詩学』に寄稿した。そのほかの口頭発表の原稿についても共著に寄稿を行い、現在、修正・校正を行なっている。
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