本研究は、最新の文学理論であるTrauma StudiesおよびGhost Studiesの知見を参照し、ジェイムズ・ジョイスの初期2作品『ダブリナーズ』と『若き日の芸術家の肖像』における亡霊表象を分析した。 上述の研究課題名にあるように、20世紀初頭のアイルランドは「悪夢」という名の歴史に取り憑かれていた。本研究が明らかにしたのは、ジョイスが亡霊的な人物―「姉妹たち」のフリン神父や『肖像』のウルフ・トーン―を登場させることで、それぞれの主人公がいかにして、アイルランドを支配する政治的且つ宗教的権威(とそのイデオロギー)がもたらしたトラウマ的経験を乗り越えようとしているかを描いたことである。
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