研究実績の概要 |
本研究は北米のエスニック・マイノリティ女性作家の作品に見出されるエコロジーとセクシュアリティの関係性を明らかにすることを目的とする。最終年度の成果は以下の通りである。 (1)計画書通り、台湾の環境文学研究者Chou氏をSES-J年次大会に招聘し、本研究課題に関するシンポジウム“Feminism, Queer Ecology, and Ecocriticism: Cultural Perspectives and Cross-Fertilizations”を実施した。ブラジルの環境文学研究者ボラ氏、本学会会員の加藤ダニエラ氏、代表者もこれに参加し、ジェンダーやセクシュアリティ等に関するエコクリティシズムを通してトランスナショナルあるいはトランスパシフィックな作品の読みの可能性を探った。代表者は日系カナダ人作家Hiromi Gotoの長編小説The Kapaa Childに描かれるカッパと語り手のレズビアン的な関係性に着目し、超自然的な存在としてのカッパが性や人間、人間ならざるもの、水を中心とした自然、宇宙をも繋ぐ象徴として描かれていることを報告した。これを論文化したものがEcocriticism Review No.12に、さらに修正したものが共著『トランスパシフィック エコクリティシズム』に近日掲載される。 (2)Gotoの作品考察に加え、癌で亡くなったアフリカ系アメリカ人作家Audre Lordeの自伝的作品と中国系カナダ人作家Rita Wongの詩集を解読し、作家の人種的・性的アイデンティティの描出と、生命技術や資本主義をめぐる倫理的な問いについて考察した。この一部を纏めたものをアルバカーキで開催されたSWPACA年次大会で報告した。SWPACAでの発表後、ニューヨークを訪れ、Lordeが生前住んでいた家やLGBT(Q) Community Centerにて関係者から有意義な意見聴取を行った。その後シカゴへ赴き、Gerber/Hart Library and Archivesで資料収集を、Center on HalstedにてLGBT(Q)の活動家と交流した。この現地調査によって本研究に関する多くの知見を得ることができた。
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