研究課題/領域番号 |
16K16799
|
研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
合田 陽祐 山形大学, 人文学部, 講師 (20726814)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | アルフレッド・ジャリ / 文学集団 / 文芸誌 / メルキュール・ド・フランス / 白色評論 / 前衛劇場 / フィクション / 声と文学 |
研究実績の概要 |
2016年度は、ワークショップとシンポジウムで発表を行った。まず日本フランス語フランス文学会秋季全国大会において、熊谷謙介氏、倉方健作氏、福田裕大氏と共に、ワークショップ「文学集団の詩学」に参加し、「世紀末の小集団と共同制作――「操り人形座」の戦略とその意義」と題する発表を行った。この発表では、ジャリとその仲間たちが、制作座の解散後、1898年に立ち上げた「操り人形座」をめぐって、集団制作と上演戦略に焦点を当てて論じた。本課題との関連では、この劇団と『メルキュール・ド・フランス』誌や『白色評論』誌とのコラボレーションについて調査を行い、これら19世紀末の文芸小雑誌が、公演に向けて、人的な支援に加え、広告など誌面を通じた支援を行ったことを示した。 続いて、日本フランス語フランス文学会東北支部大会で開催されたシンポジウム「フィクション化する世界」では、ジャリの初期散文詩と、後期に発表されたエッセーを取り上げ、そこでの語り口の共通点に注目した。ジャンルは異なるものの、両者において、(1)パタフィジックとジャリが命名した方法に基づいてテクストが書かれていること、そして(2)読者にテクストの「余白」を解釈させることで、ユーモア(ないしブラックユーモア)が発動するという、読者との「共同作業」が賭金となっていることを明らかにした。なお後者は、「パタフィジックとフィクション――フィクションを構築する語りについて」として論文にまとめた。 その他、平凡社より刊行された「声」を主題とする論集『文学と声』収録の論文「〈操る声〉と〈声の借用〉――ジャリにおける蓄音機、催眠術、テレパシー」が刊行された。この論文では、表題の3つの装置の検討を通して、ジャリ作品を1890年代の文脈に位置付け直したうえで、その声の詩学の特異性を〈支配する声〉と〈声の借用〉という概念に分類しながら明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
作業がやや遅れた理由はおもに2つある。第一に、白水社発行の雑誌『ふらんす』で、本課題のおもたる研究対象であるジャリをとりあげ、1902年発表の小説『超男性』の対訳の連載を行ったためである。これは月刊誌での連載であったため、8月から1月にかけて、この連載の記事執筆のために、一定の時間を費やした。商業誌での連載経験はなかったため、執筆に慣れるまでに思わぬ時間を要した。 第二に、学会での共同発表が2つあったことがあげられる。秋の学会において、上述のワークショップでの発表とシンポジウムでの発表を行ったが、後者では企画や準備、当日の進行も担当したため、それらに時間を割いた。いずれの会でも、ジャリに関する発表を行ったが、ワークショップでの発表は、個人で行う発表に比べ、他の発表者との調整やテーマの共有等があったため、当初の構想よりも準備に時間を費やした。夏期にフランスに調査のために滞在した際、発表の準備や原稿執筆に時間を割いたため、予定していたフィールドワークが7割ほどの段階にとどまった。ワークショップの原稿についても、本年度中に活字化することができなかった。 作業の遅れについて具体的に述べると、レミ・ド・グールモンに関して、雑誌記事の収集・複写は予定通り行うことができたが、その読解が遅れている。ジャリに比べると、グールモンの研究はフランスでも本格的に開始されたばかりなので、参照できる二次文献が十分ではない。その分、本課題の観点から行う読解にも、時間を要することが予想される。これが、進捗がやや遅れているとした部分である。 ただし、今後2年目以降に、1年目に得られた成果を活字化していく際、上記の対訳の連載や、ワークショップの準備のため、細かな調べものをフランスで行った結果、そこで発見できたことや、思わぬ収穫もあったため、それらをいかして、論文の執筆を行うことができる。
|
今後の研究の推進方策 |
2017年度の研究は、次の3つを作業の中心とする。また、1年目の遅れを取り戻すために、作業の多くを、夏期の在外研究以外では、資料の読解と論文の執筆に当てることにする。 (1)1年目に行った発表で、活字化していないものを論文として公表する。これには、操り人形座に関するものと『超男性』論がある。また、昨年の夏の現地調査で収集した資料をもとに、レミ・ド・グールモンと雑誌について、論文執筆の準備を進める。『メルキュール』などの比較的有名な雑誌ではなく、あまり論じられることはないが重要な雑誌を取りあげる予定である。 (2)ジャリについて、『ユビュ王』の読み直しを行う。この作品単体の読解ではなく、前期ジャリの文学空間において、この作品が担う位置やその役割を総合的に再検討することが、この作業の中心となる。そして『ユビュ』以後の1897年に始まる中期ジャリの試みが、象徴主義から逸脱していくことの意味を明らかにする。 (3)昨年度春期の調査で開始したアルベール・オーリエと世紀末の雑誌をめぐる研究を、夏期にパリに滞在し継続的に行う。オーリエは多くの変名を用い、これまで知られていたよりもずっと多くの雑誌に執筆している。とりわけオーリエが当時の文壇にもたらした寄与については、詳らかになっていない部分が多い。グールモンとの共同作業を開始するまでに、オーリエが所属したグループと、画家たちとどのような交流してきたのかを明らかにすべく、調査を引き続き行う。 上記(1)から(3)の作業に関しては、(1)を夏までをめどに行い、(3)を夏期海外滞在中に行う。(2)に関しては、すでに構想はできているので、年間を通して、ジャリの作品を読み直しながら、論文の執筆を進める。執筆に際しては、博士論文執筆時には刊行されていなかったクラシック・ガルニエ版ジャリ全集を参照しながら、新しい情報を随時盛り込んでいく。
|