研究課題/領域番号 |
16K16799
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
合田 陽祐 山形大学, 人文社会科学部, 准教授 (20726814)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 象徴主義 / 定期刊行物 / 文芸誌 / 世紀末 / 文壇 / 前衛 / 文学ジャンル / 風景 |
研究実績の概要 |
今年度は、夏期にフランスの国立図書館において、1890年代のフランスの文芸誌と、ベルギーの文芸誌との関係を中心に調査を行った。ジャリが所属した初期の『メルキュール・ド・フランス』誌と、ベルギーの作家たちとの交流関係を整理するうえで、有益な調査となった。 今年度のおもな成果としては、口頭発表を1回行い、学術論文1本を執筆した。象徴主義の研究者を中心とするシンポジウム「象徴主義と〈風景〉」が開かれ、そこで「ジャリにおける象徴主義的風景」を発表した。その後、この発表の一部を発展させるかたちで、「ジャリと風景の再構築――『昼と夜』における知覚と表象の関係を中心に」にまとめた。ジャリは模倣としての風景描写を否定したことで知られる。そのため先行研究では風景の問題は扱われてこなかった。この論文の意義は、外的世界の変形という切り口から風景のテーマに取り組むことで、小説『昼と夜』(1897)での幻覚や夢の表象のなかに、従来の「魂の状態」や「内面の風景」とは異なる、ジャリに固有の象徴主義的風景観が現れていることを明らかにした点にある。 また、本課題に直接関係する事業として、海外の協力研究者の一人であるジュリアン・シュー氏(パリ・ナンテール大学准教授)を招聘し、連続講演会「19世紀末のメディア的想像力」を実施した。講演は東北大学、山形大学、京都産業大学において3回に渡り行われた。講演の内容としては、本課題のテーマである世紀末の文壇における定期刊行物の役割に関わるものを依頼した。講演では本課題では直接扱われない文芸誌や新聞に焦点があてられた。報告者はこれらの講演の通訳と司会役を務めた。とくに質疑応答では、パリの地理的な条件と、新たに生み出される前衛の文学ジャンルとの関係性をめぐって議論を交わし、本課題にとっても貴重な視点を共有することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
研究が遅れた理由はおもに3つある。前述の『象徴主義と風景』のための発表準備と論文執筆に多くの時間を費やしたこと、新たにジャリの小説の校訂作業を依頼されたこと、そして現在執筆中の論文が今年度内には完成しなかったことである。 先述したように、ジャリと風景のテーマのもとに書かれた先行文献は存在しない。また、ジャリの作品にはまとまった風景描写が現れるわけではない。そのため、ジャリの初期から中期にかけての作品を、順に読み返すことになった。その過程で、多くの発見があったものの、予定よりも分析に時間がかかってしまった。 今年度中には刊行されなかったが、昨年度の夏より、ジャリの中編小説『訪う愛』(1898)のヴァリアントに関する校訂作業を行っている。本課題のテーマの一つである、定期刊行物への寄稿が、個人の文学的創造にどのような制約を与えるかを検討するうえで、有益な研究である。このテキストは、現在オノレ・シャンピオン社から刊行中の『ジャリ全集』に収録予定である。 その他にも、執筆はほぼ終えているが、今年度の投稿に間に合わなかった論文が一つと、現在推敲中の論文が一つある。これらは、夏以降に紀要等に投稿する予定である。前者は『超男性』(1902)を物語論を用いて再論したもので、これは一昨年に白水社の『ふらんす』誌上で行っていた対訳連載の成果である。後者は、やはり一昨年度に学会のワークショップにおいて口頭発表を行った「操り人形座」に関する研究である。こちらは社会学的な観点からさらに推敲を重ねている段階で、秋に論集に投稿する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は最終年度となるため、これまでの分析成果をまとめて公表することになる。そのうえで重要なのが以下の2つの作業である。 (1)レミ・ド・グールモンとの共同作業について包括的に論じる。グールモンと共同編集していた『イマジエ』や『メルキュール・ド・フランス』の記事の分析が中心となるが、グールモンがどのようにジャリを文壇に売り出そうとしていたのかを、社会学的な観点から検討する。またその過程で、ベルト・ド・クーリエール事件の詳細についても、新しい資料に基づいて再論する必要がある。 (2)ラシルドとの関係をまとめる。ラシルドのジャリ伝では語られていないジャリとの交流について、とりわけグールモンとの決裂以後に、ラシルドがジャリにいかなる文学的な支援を行っていたかを明らかにする必要がある。ジャリの小説の読み手としてのラシルドに注目して論じる。 そして上の2つの作業の補足として、『白色評論』時代のフェネオンとの関係の再検討を行う。ジャリが同誌で連載していた記事の構成や内容に、どの程度まで同誌のイデオロギーが反映しているのかを探る。 最終年度は、おもに以上の3人の支援者・庇護者との関係に再注目することで、論をまとめることになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
残額の18円で購入できる品がなかったため。
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