2018年度は1本の学術論文を公刊し、2回の学術発表を行った。また共著論文が1本刊行された。 研究論文「アルフレッド・ジャリの『超男性』再読――語りの観点から」では、ジャリの小説『超男性』をナラトロジーの方法を用いて分析した。この小説においてジャリが、それ以前の小説に見られた物語の複雑な筋立てを放棄した代わりに、物語の提示の仕方(とりわけその順序や視点人物の設定)において、これまでの作品には見られない実験的試みを行っていることを明らかにした。 一つ目の研究発表「カルチエ・ラタンからモンマルトルへ――ジャリから見る1890年代パリの文学場」では、ジャリが『メルキュール・ド・フランス』のグループを中心に、複数のグループを渡り歩いていく中で、場の中心に位置取りを行うために用いた戦略を浮き彫りにした。現在、ジャリが独自の文学空間を構築するために、マラルメ的な象徴主義(とりわけ書物概念)をどのように受容したのかについて論じた部分を中心に、同発表の内容に手直しを加え、共著論文として刊行する準備を行っている。 二つ目の研究発表「ボナールと「見させる」絵画――象徴主義の時代を中心に」では、ジャリのお抱え画家としても知られるボナールの、19世紀末のナビ派時代の作品に焦点をあてて分析を行った。近年の海外の先行研究を踏まえつつ、色彩の配置や構図によって、ボナールがタブローを見る者の視線の誘導を行っていることを独自の分析をとおして検証した。 共著論文「ジャリと風景の再構築――『昼と夜』における知覚と表象の関係を中心に」では、昨年度の発表の一部を詳述する形で論文化した。この論文ではジャリによる風景描写が先行する写実主義への批判を含んでいることを指摘した。現実の風景を麻薬や速度の力を用いて変形し、独自のヴィジョンをそこに上書きすることが、ジャリの風景の詩学の根幹にあることを明らかにした。
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