研究課題/領域番号 |
16K16805
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研究機関 | 京都市立芸術大学 |
研究代表者 |
中村 翠 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 講師 (00706301)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 仏文学 / 自然主義文学 / アダプテーション / 予告 / 布石 / ゾラ / 翻案 / ミルボー |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、文学をもとにしたアダプテーション(翻案)作品において、受け手の興味を惹きつける語りの手法がどのように再構築されるのかを考察することである。本課題初年度は、主にゾラの作品と彼自身による演劇への翻案を分析対象としたが、二年目にあたる2017年度は、19世紀末~20世紀初頭の自然主義文学とその翻案作品を対象とした。 その研究成果の一例として、2017年6月、ハンガリーで開催された国際学会AIZEN"Zola, Mirbeau et le naturalisme"にて研究論文"Une predilection pour les chaussures dans "La Vierge au cirage" de Zola et "Le Journal d’une femme de chambre" de Mirbeau"を発表した。この発表は、文学におけるフェティシズムの表象として名高いオクターヴ・ミルボーの小説『小間使いの日記』(1900)が、じつは1865年に発表されたゾラの短編作品のある種の翻案であった可能性を示唆するものである。この研究についての論文は、近日発行されるシンポジウムの論文集への掲載が確定している。なお、ミルボーのこの小説はジャン・ルノワール(1946)、ルイス・ブニュエル(1964)、ブノワ・ジャコ(2015)らによって繰り返し映画化が試みられているが、今回の研究成果が、映画アダプテーションに関する研究へと発展させる土台となった。 なお前年から投稿していた、ゾラの『金』における予告的ユートピア像がどの時点で作品の構造に組み込まれたかを生成論的アプローチによって考察した論文"La genese de l'utopie chez Zola. La creation du personnage socialiste dans "L'Argent""が、書籍"eLa Fabrique du texte a l'epreuve de la genetique"中に掲載され出版された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題初年度は、ゾラの翻案作品についての研究に限定されていたのに対して、二年目は自然主義文学の他の作家にもコーパスを広げることを目標としてあげていたが、この点については上記のミルボーとの比較研究において達成できた。ただし、ミルボー以外の同時代の作家についてや後世の翻案作品については、現在も並行して調査を続行しており、まとまった成果の発表は最終年度以降となる見込みである。 作家の自筆原稿などから構成段階を追う生成分析については、長期休暇等を利用してフランス国立図書館およびゾラ・センターにて資料収集を行った。今後もそれらの資料の分析を続行する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題最終年度は、ジャンル研究を集中的に行う。アダプテーションを考察するにあたり欠くことのできないジャンル研究について、理論の基盤を強化する。これをふまえた上で、語りの手法「予告」や「布石」が、翻案化の際、ジャンル特有の表現形態や鑑賞形態に即してどのように変わっていくのか、考察する。 上記のジャンル比較研究は、初年度から平行して行っている生成研究のアプローチとも組み合わせて進める。このため、夏期・春期休業期間に渡仏し、資料調査および複写を行う。 なお、すべてをまとめて、3年間の研究の集大成となる研究論文を執筆する。
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