本課題は、文学作品がアダプテーション(翻案)される際、どのように語りの手法が再構築されるのかを明らかにすることを目的とする。その際、初読の際に鑑賞者の興味をかきたてる「予告」、および再読を促す「布石」という手法に焦点をあてた。とりわけ、十九世紀後半の自然主義文学は、演劇や映画など、他ジャンルへのアダプテーションが活発に行われる源となった。したがって、自然主義文学作品の翻案を主要な題材として研究をおこなった。 具体的には、2020年に発行された論文集『Emile Zola et Octave Mirbeau. Regards croises』において、論文を発表した。これは2017年ハンガリーにおいて国際学会で発表した研究の内容である。 また最終年度は、自然主義の理論を演劇、そして映画のジャンルに取り入れることで、刷新的な演出法をあみだしたアンドレ・アントワーヌや、映画の黎明期にゾラの『居酒屋』を映画化した(これはフランスで最初の長編映画である)アルベール・カペラニらの調査をすることにより、自然主義文学がアダプテーションに果たした歴史的意義を考察した。さらに、作家自身による演劇台本化へのとりくみ、および、カペラニ、グリフィス、クレマンなどの監督による映画化作品をたどり、主人公の運命を前もってつげる予告者の系譜がどのように翻案されているかを比較分析した。これらの成果を「自然主義小説のアダプテーション 舞台、そして映画へ」というタイトルで論文にまとめた。これは論文集『レアリスムの交叉と越境』にて出版される予定である。
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