研究課題/領域番号 |
16K16807
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
志々見 剛 日本大学, 法学部, 助教 (40738069)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 歴史記述 / ボードワン / ポリュビオス |
研究実績の概要 |
本年度の研究においては、レオナルド・ブルーニ、マキャヴェッリ、ジャン・ボダン等におけるポリュビオスの受容について先行研究を検討した後、16世紀フランスの法律家知識人たちの歴史論の流れを決定づけた著作として、ボダンの『歴史を容易に理解するための方法』(1566)に先立つ、フランソワ・ボードワンの『全体史教程』(1561)を特に取り上げて分析した。その成果を「フランソワ・ボードワン(1520-73)─ 歴史と法学の結合─」と題する論文においてまとめ、ボードワンにおいて、ポリュビオスの『歴史』に想を得た「全体史」、「実践史」といった概念が、16世紀当時の状況に合わせて変奏されながら用いられていることを示した。すなわち、ボードワンはこれを、キリスト教的な歴史観と人文主義的な歴史観、法学研究と歴史研究、歴史についての理論的な考察と実践への応用といった相異なる要素を結合し、一つのものとして包摂するための鍵概念として活用していたのである。彼はまた、一時カルヴァンに傾倒していただけではなく(のちに袂を分かつ)、ハイデルベルク大学で教鞭をとった際には改革派(特にルター派)の歴史論も吸収し、また宗教戦争前夜のフランスにおいては新旧両派の調停のため、カトリーヌ・ド・メディシスの意を受けて奔走してもいる。このような彼の立場は、世紀後半には次第に亀裂を深めていく、改革派の歴史論とフランスの法律家知識人たちの歴史論との接合点に当たっていたのではないか、というのが目下の仮説である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究の中で主な対象として取り上げたフランソワ・ボードワンの『全体史教程』は、16世紀フランスの法曹知識人たちによる歴史論の源流の一つとも言うべき重要な著作であるが、それにもかかわらず、これまでには極めて限られた先行研究しか存在しなかった。これについて、ポリュビオスの「全体史」や「実践史」などの概念との関係はむろんのこと、同時代の(特にルター派の)改革派の歴史論との関係、そしてそれ以降のボダンなどとの関係も踏まえながら詳細に分析し、ルネサンスの歴史論の発展の中で(あくまで暫定的なものではあるにしても)一つの位置づけを与えることができたのは、大いに意義があることであった。このように、今年度の総括として、本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では、各年度ごとに、ポリュビオス、ハリカルナスのディオニシオス、ルキアノスといったギリシャの著作を順次取り上げて、ルネサンス期(特にフランス16世紀)における受容や利用のさまを検討していく予定だった。今後もこの大枠は維持するつもりであるが、研究の進み方によっては、多少重点の置き方を変えることがあるかもしれない。例えばポリュビオスの影響の大きさに鑑みて、ボードワン以外の著作家におけるポリュビオスの受容について、より詳しく分析する必要が生じるかもしれない。また、特にルキアノスは『歴史を正しく書くことについて』という歴史記述論と、『真実の話』という歴史批判をないまぜにした虚構作品というまったく異質な二つの作品を残しているが、彼の影響について考える上では、詩や虚構といったものの位置づけ自体を問題にすることが必要かもしれない。
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次年度使用額が生じた理由 |
必要な書籍の購入に充てたかったが、額が足りなかったため、次年度に回すことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の物品費に繰り越し、必要な書籍等の購入に充てる予定である。
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