本研究は、16世紀後半のフランスの歴史記述論を主な対象として、前二世紀-二世紀のギリシャ語著作家たちがどのようにして受容され、どのような影響を与えたのかを探ることを目指すものだった。2019年度には、ひとつの総括として、「16世紀後半のフランスの歴史論におけるトゥキュディデス」と題する論考を発表した(『ロンサール研究』第32号)。ここでは、トゥキュディデス自体よりもむしろ、古代以来のトゥキュディデス論(キケロ、ルキアノス、ハリカルナスのディオニシウスなど)、そしてその中でしばしば見られるヘロドトスとの対比に着目して、アドリアン・トゥルネブ、ジャン・ボダン、アンリ・エチエンヌ、アンリ・ランスロ・ド・ラ・ポプリニエらの著作を検討することができた。 2020年度はこれをさらに発展させて、シチリアのディオドロスの『歴史叢書』、とりわけ太古の時代について扱ったその最初の数巻について、研究を深める予定だった。ただ、実際のところは、多少の資料をそろえることこそできたが、新型コロナウィルスの蔓延のため生活上・仕事上に甚大な影響を受け、とうてい腰を据えて研究に打ち込むことはできなかった。夏季に予定していたフランスでの資料収集も、当然のことながら、実施することはできなかった。ある程度研究の方向性が見えてはいるので、今後の課題として、今ある資料を読みこみ、足りないものを補って、何らかのまとまった論文として発表したいと考えている。
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