バレスからプルーストへと至る道程をエゴチズムの系譜として捉え直す本研究において、当初の予想通り、2人の作家の作品の背景となるドイツ観念論に関するフランスの受容については複雑を極めた。しかしながら、様々な当時の雑誌を精査した結果、プルーストとドイツ観念論について、基本的にはアンヌ・アンリが主張するのほどの直接的な影響関係は見られず、リュック・フレスが展開したような、当時の哲学教育のマニュアルを中心に見ていくことで、エゴチズムの系譜も見通しがよくなることを確認した。そうした予備作業の上に、バレスのエゴチズムがプルーストにいかに影を落としているのか、特に教会と舞踏のイメージに着目して研究を進めた。その成果は『教会、音楽、舞踏ーバレスからプルーストへ』として、白水社から書籍として出版を準備している。著作のアウトラインは決まっているが、細部についてはまだ考察が不十分なところがあり、特にジッド、ヴァレリーなどのエゴチズムとバレスープルーストのエゴチズムの比較検討がなすべき作業として残っており、出版までまだ一年以上かかる見込みである。部分的な成果として、海外研修先のラ・プラタ大学、ブエノスアイレス大学で、2020年7月に「プルーストとバレスー教会を巡る文学」、「バレスとプルーストーエゴチズムとジェンダーの諸問題」として招待講演と学会発表を予定している(コロナ問題への対応のため実施されるかどうか未だ不透明)。仮にオンライン上でさえも学会発表、講演会がなされない場合は、雑誌論文として発表する予定。 また光文社より10月に出版予定の『迷走する日本思想ー主体の系譜学』においては、日本思想との関連で、イデアリスムの解説に多くのページを割いた。これは一般読者向けの教養書といった趣が強いが、本研究の成果が随所に散りばめられたものとなっている。
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