明代における、また明代を題材とする歴史書と歴史文学について、さまざまな史書と長編・短編の歴史小説、文人による歴史劇・民間の歴史劇、文人の詠史詩と歴史小説の詠史詩を対象として、史書と歴史文学の相互的な関係の一端を解明した。そのさい、ある話柄が文芸内のみならず、史書と文学という垣根を越えて伝わる様相に着目した。具体的には、万暦年間後期に歴史小説『雲合奇蹤』が制作される際、現代にまで伝わる地方演劇『太平春』の原型にあたる民間の歴史劇が影響を与えたのではないか、という見通しを立てることができた。また、建文年間の朝臣に関する異説や逸話が史書や歴史文学の間を横断しながら伝えられたことを明らかにした。
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