研究課題/領域番号 |
16K16814
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
秋草 俊一郎 日本大学, 大学院総合社会情報研究科, 准教授 (70734896)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 翻訳 / 出版 / 流通 / 草稿研究 |
研究実績の概要 |
ナボコフ関連の資料調査、整理を中心に研究をすすめた。10月にニューヨーク公共図書館バーグコレクションおよびアメリカ自然史博物館にて資料調査をおこない、ナボコフと出版社ニューディレクションズについての情報を集めることができた。また、現地でナボコフ研究者のマイケル・ジュリアー氏と情報を交換することができた。 直接的な研究成果として、"Nabokov and Laughlin: A Making of an American Writer"がNabokov Online Journal(10/11号)に採録された。それだけでなく、ナボコフの東洋からの影響について論文"Nabokov and Hearn: Where the Transatlantic Imagination Meets the Transpacific Imagination"が論集Nabokov Upside Down(Northwestern University Press)に掲載、ナボコフのモダニスト嫌いについて論文「ナボコフとエリオット――「ゲーム」から「モラル」へ、「歴史」から「伝記」へ」が『T.S. Eliot Review』27号に掲載された。 なお、論文「「書き直し」としての自己翻訳――ノーベル文学賞候補西脇順三郎の「神話」」(『アウリオン叢書』16号)では、西脇順三郎を主に論じながらナボコフの自己翻訳について社会的な観点から考察する手がかりをえた。 編訳書『ナボコフの塊――エッセイ集1921―1975』を刊行。ナボコフの広範にわたる執筆活動について最新の専門的な知見をもまとめることができた。 3月にはシンポジウム「複数の言語、複数の文学──やわらかく拡がる創作と批評」」において発表「ナボコフは世界文学か?」をおこない、ナボコフの英語作家への転身が亡命ロシア文学界にあたえた影響について報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
資料調査についてはおおむね順調である。10月におこなった出張により、ニューヨーク公共図書館のニューディレクションズおよびその創業者ジェイムズ・ロフリンとウラジーミル・ナボコフ、ヴェラ・ナボコフの関連書簡をほぼ調査し終えることができた。 研究内容の公開・出版については想定以上の進展があった。海外の、ナボコフ研究では著名な学術誌Nabokov Online Journalに、本研究課題について、調査成果を盛り込んだ論文"Nabokov and Laughlin: A Making of An American Writer"が採録された。国内の学会誌T.S.Eliot Reviewにやはりアーカイヴ調査の手法を盛りこんだ論文「ナボコフとエリオット」を寄稿した。さらに、海外の論集(論集の編集委員会と出版社の出版委員会による査読をへている)に、やはりニューヨーク公共図書館での調査結果を盛りこんだ論文"Nabokov and Hearn:Where the Transatlantic Imagination Meets the Transpacific Imagination"を寄稿することができた。また、海外の図書館での資料収集および最新の研究を盛りこんだナボコフのエッセイ集『ナボコフの塊――エッセイ集1921-1975』を翻訳刊行することができ、それにたいして、ナボコフの単行本未収録資料についての知見を織りこんだ詳細な解題および訳者解説を加えることができた。 3月におこなわれたシンポジウムでは「ナボコフは世界文学か?」と題した発表をおこない、ナボコフ研究と世界文学研究の接点について現在までの研究を整理し、結合することができた。 上記のことから当初の想定以上に研究が進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
個人で購入し、使用していたラップトップコンピュータが動作不良を起こすようになり、バッテリーももたなくなってしまったため、海外での資料調査において長時間図書館内で手稿・草稿・書簡を閲読する必要を考え、新しいラップトップコンピューターの購入を検討したい。 現地調査を予定していた海外の大学のうち、問い合わせた結果、インディアナ大学図書館など、有償でアーカイヴ資料の複写を郵送してくれる大学が判明したため、時間・費用の節約の観点からその利用を検討したい。 主に出版社との関係性を調査していた初年度であったが、研究が大幅に進展し、当初予期したかなりの部分を調査し、成果として出版できたことを考え、研究の拡張をおこないたい。具体的には、出版・流通にくわえ、それを成立させるカノン化の条件である。そのため、ナボコフが世界文学としてカノン化するため、初期に大きな役割を果たした、伝記作家アンドルー・フィールドとナボコフの関係について調査をおこないたい。また、レイモンド・カーヴァーの編集者として著名なゴードン・リッシュや、『ニューヨーカー』の編集者キャサリン・ホワイトとの書簡を調査したい。 総合的な資料調査の便益から考えると、依然としてニューヨーク公共図書館バーグコレクションが調査対象の第一候補ではあるが、今後の調査の発展を考え、ブリンマー大学なども調査の視野に入れたい。 今年度の主だった国外の学会のうち、MLAがニューヨーク(1月)、ASEEESがシカゴだった(11月)。予定があえば参加を検討したい。国内学会としては、6月の比較文学会の全国大会、秋の日本通訳翻訳学会全国大会、11月の日本ナボコフ協会研究会、世界文学CLN研究会がおもな国内出張の候補になる。
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次年度使用額が生じた理由 |
ほぼ計画通り研究費を使用することができたが、一部購入を予定した研究図書の刊行が遅れたため、発注を次年度にまわすことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
消耗品費にあてる。
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