研究実績の概要 |
2018年度は、2016年度、2017年度に引き続き、ナボコフの渡米以降の受容コンテクストの変化についての研究・考察をおこなった。その過程で、愛人との不倫についての伝記的記述の変遷をあつかった小文「ナボコフの「あやまち」」を『新潮』に寄稿した。またナボコフの受容コンテクストをあつかった最新の研究Duncan White, Nabokov and His Books: Between Late Modernism and the Literary Marketplaceの書評を学会誌『Krug』11号に寄稿した。さらにナボコフの作品『密偵』を翻訳し、訳者あとがきでそれが作者によって翻訳される過程でどう変わったのか考察した。それだけでなくエミリー・アプター『翻訳地帯――新しい人文学の批評パラダイムにむけて』を共訳し、翻訳出版のマーケティングなど翻訳のさまざまな側面についての理解を深めた。加えて、マシュー・レイノルズ『翻訳――訳すことのストラテジー』を翻訳し、翻訳におけるポリティクスや外交といった側面にも理解を深めた。 研究期間全体を通じた研究によって、ナボコフが、ロシア語亡命作家V・シーリンとして出発し、アメリカで世界的な英語作家ウラジミール・ナボコフになるまでの過程において、出版や自己翻訳、メディア戦略が重要な役割を果たしていることがしめされた。上記のような研究成果は、おおむね単著『アメリカのナボコフ―塗りかえられた自画像』(慶應義塾大学出版会)にまとめ、出版された(2018)。本書の出版により、研究は予定通り完遂されたと言える。
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