研究課題/領域番号 |
16K16819
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
早田 清冷 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 研究員 (20773873)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 満洲語 / 母音弱化 / 格標識 |
研究実績の概要 |
まず,前年度に引き続き,17世紀半ばの満洲語の話し言葉における第2音節以降の母音弱化について仮名表記された満洲語資料を通した研究を継続した。『韃靼漂流記』中の表記において,日本語の/u/として仮名表記される傾向にある語頭音節の例とは異なり,第2音節以降のuの音声は日本語の/o/として仮名表記される傾向にあり,この母音の開口度が語頭音節よりも比較的広いことがうかがえる。aも第2音節以降において日本語の/a/ではなく/o/として仮名表記されている例がある。uの例もaの例も第2音節以降の一部の母音が不明瞭に発音されていたことを示唆するものである。さらに本資料における満洲語音の仮名表記におけるハ行子音の用いられ方に関しても特徴を纏めた。 また,満洲語の属格標識のniという形について,以前に行なった分析に加えて,属格標識の音形に通時的変化があった可能性の考察を加えることができた。人為的な発音上の工夫が書き言葉にも採用されniと発音されていた可能性を以前の研究で指摘したが,これとは別に,ngで終わる借用語の後で格標識が先行する単語からある程度独立して発音され,その結果として,語頭に現れうる鼻音が限られることからniという形が生じた可能性を指摘できる。 さらに,一部の資料に見られる書き換えを通した予備的な分析によって,満洲語の場所の表示や目的語の表示に関わる格標識の一部において,その用法に歴史的な変遷があった可能性が浮上した。清代のうちにかなりの変遷があった可能性がうかがえるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
仮名表記された満洲語資料の分析を前年度に引き続き進め,付属語・付属形式に関係する非語頭音節などの口語音についての考察を進展させるとともに,時代間の差違の分析に着手している。清代の満洲語の格体系の問題は通時的問題と共時的問題が複雑に混在しているが,これについて問題を整理しつつ分析を進めることが出来ており,研究課題は,おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
場所の表示や目的語に関わる格標識の変遷には満洲語と日本語で共通の問題が存在する事が示唆されている。引き続き満洲文字資料による古典満洲語の資料とそれ以外の満洲語資料,さらに日本語など他の言語の資料も用い,幅広い視点から満洲語の格標識と格標識に類似の形態素の音形と機能を解明することを目指す。
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