研究課題/領域番号 |
16K16826
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
團迫 雅彦 九州大学, 人文科学研究院, 専門研究員 (50581534)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 言語獲得 / 生成文法 / 格 / パラメータ / 談話的要因 / 統語論 / 中立叙述 / 総記 |
研究実績の概要 |
本研究は生成文法理論に基づく言語獲得研究によって、日本語の主格助詞の形態的具現化に関するパラメータの妥当性を検証し、主格標示される主語の構造的位置を解明することを目的とする。熊本方言では談話的要因により、主格助詞「ガ」と「ノ」が用いられる。幼児発話でも「ノ」が観察されるため、このパラメータの無標の値は熊本方言に設定されている可能性がある。二年目である2017年度は初年度の研究の基盤作りを基にして、具体的な検証および提案を行った。
(1) 熊本方言の属格主語は「中立叙述」の用法のみを持つため、上述のパラメータがもし無標であるなら幼児の属格主語も「中立叙述」の用法のみであることが予測される。ところが、「総記」解釈になる属格主語が観察されたことから、熊本方言とは異なり、幼児文法における属格主語は「中立叙述」や「総記」といった談話的要因に依存せずに具現化することが示唆された。熊本方言の「中立叙述」と「総記」解釈を持つ主語はそれぞれ生起する構造的位置が異なるとされるが、幼児文法の場合は形態的には同じ格標識を持ちながら、異なる二つの解釈を持ちうることがどのような要因で起こるのかは興味深い問題であり、今後の研究の中で明らかにする必要がある。また、その他の研究として、(2) 幼児発話において、動詞と活用語尾の組み合わせが増える段階と主格助詞が正しく使えるようになる段階を特定するために、発話の収集を行なった。加えて、(3) 英語の主語と動詞の一致が獲得過程において、どのように実現するかを最新の理論的研究に照らし合わせて分析を行なった。
これらの研究を、(1) 国内の全国学会での口頭発表1回、(2) 国内の全国学会でのポスター発表1回、(3) 国内の学会の支部大会でのシンポジウム発表1回、(4) 国内の全国学会での大会予稿集2篇、(5) 科学研究費の研究報告書への掲載論文1篇という形で発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2017年夏に怪我をしたため、当初予定していた言語産出・言語理解に関する調査・実験は実施できなかった。しかし、実験研究に向けて幼児の発話データベースを用いた言語獲得研究、統語論研究などを十分に進めることができた。このため、国内での研究発表や論文作成自体は進んでおり、研究計画書では2017年度は<調査・発表ステージ>と位置付けていたが、そのうちの発表については予定通り進展させることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2018年度は、言語産出・言語理解に関する実験と研究発表・論文発表を以下のように行う。 (1) 計画の立案:言語産出・言語理解に焦点を当て、熊本県内の保育施設に在籍する幼児を対象に調査を実施する。それにあたり、4月から7月にかけて課題研究の準備状況と研究計画の再確認を行う。 (2) 調査1:言語産出の調査に関しては、幼児の自然発話を記録し、主格助詞を抜き出、どのような述語のときに用いているかを観察ならびに検討する。もし自然発話の中で十分に観察できないことがあれば、個別に幼児ごとに産出課題を実施し、主格助詞を用いた発話を引き出す。 (3) 調査2:理解調査に関しては、実験のキャラクターが状況に合った正しいことを話したかどうかを被験者に問う真偽値判断課題(Truth Value Judgment Task)を行う。 (4) 口頭発表・論文発表:(A)言語産出ならびに(B)言語理解ともにこれまでの調査で得られた成果を外部に口頭発表・論文投稿の形で公表していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年夏に足を負傷し、熊本での現地調査が不可能になり、そのための旅費が使用されなかった。それに伴い、調査での人件費や謝金も使用されていない。これらの理由により、次年度使用額が生じた。今年度は、熊本での現地調査・実験を実施し、旅費や人件費・謝金に充てたい。
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