本研究は生成文法理論に基づく言語獲得研究によって、日本語の主格助詞の形態的具現化に関するパラメータの妥当性を検証し、主格標示される主語の構造的位置を解明することを目的とする。最終年度である2019年度はこれまでの研究を基にして、具体的な提案や発展的課題に取り組んだ。
(1) 属格主語の誤用は非規範的語順である(O)VS文には現れないことをCHILDESデータベースを調べることにより明らかにした。規範的語順であるS(O)V文の場合には、主語の格標識の誤用が観察されており、なぜこのような語順による違いが生じるのかは興味深い。本研究では、主語がTPを越えて移動することでTPが活性化するという仮説(Movement Effect Hypothesis)を提案した。また、この仮説は前年度の2018年度に検討した母語獲得過程における英語の主語と動詞の一致についても適用可能であることを示した。(2) (1)と関連して、主格助詞の省略がS(O)Vと(O)VS文で異なるかどうかを検討し、非規範的語順の方が主格助詞が省略されないことが明らかになった。ただし、他動詞文ではほぼ省略されないのに対し、非対格動詞文と非能格動詞文ではどちらも4割程度の省略にとどまった。動詞ごとによって主格助詞の省略可能性がなぜ異なるのかは別途検討する必要はあり、今後の課題として検討したい。(3) 日本語では、副詞節にTPを含むかどうかにより、主格主語の解釈が異なる文があり、もし大人と同様に理解ができるのならば、TPと主語との認可関係について子どもが獲得できていることを示すことができる。この実験に向けて、現在準備中である。(4) 主語分裂文と目的語分裂文を用いた理解実験について批判的検討を加え、現在新しい実験の準備中である。
上記 (1) の研究を、国内の雑誌(査読有り)への掲載論文1篇という形で発表した。
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