本研究は、標準語と熊本方言の間で、談話的解釈によって主格の形態的標示が異なることに基づき、「主格助詞の形態的具現化に関するパラメータ」を提案し、幼児の自然発話を対象にして、理論的検証を試みた。その結果、(i)幼児文法における誤用の属格主語は「中立叙述」や「総記」といった談話的要因に依存せずに具現化すること、(ii)属格主語の誤用は、規範的語順であるS(O)V文とは異なり、非規範的語順である(O)VS文では現れないことから、幼児文法では主語がTPを越える移動を行う場合に限り、大人と同様のTP投射が備わった文構造が発現すると主張した。これは統語操作としての移動が主格の認可を促すことを示唆する。
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