計画3年度目となる平成30年度は、以下2点の研究活動をおこなった。 (1)未報告地域での言語および社会言語学的状況の把握:これまで未解明なままおかれていた保山地区騰衝県内における調査をおこなった。当該地域のワ族は前年度にも調査した「本人」または「本族」と称される人びとに近いと推定される。漢語あるいはタイ系言語への言語移行が顕著であること、ローマ字方式の転写法が用いられていないことが確認された。この傾向は文化全体に及ぶようで、当該地域では例えばワ族のいかなる支系にもない民族劇の伝承があるようである。おそらくかなり早い時期から周辺民族の文化的影響を受けたものと推定される。 (2)華南少数民族におけるリテラシーの比較的研究: マクロの視点からワ族の事例をとらえなおすため、雲南省の隣接地域におけるローカルテクストの使用状況の比較的研究をおこなった。これまでの聞き取り調査において、建国直後の中央政府主導による「ワ族の文化」形成期に、ミャオ族の文化事業(歌、テクスト)が引き合いにされたとの情報がある。一方で、外部より文字文化がもたらされた点、内部分岐が大きいという点において、ミャオ族もワ族と同じ社会言語学的問題を抱えている。こうしたジレンマはラフ族など、華南少数民の多くにおいて共有されることがわかった。 以上の調査研究によって得られた知見については、口頭および論考というかたちで成果の公開に努めた。East Asian Anthropological Associationの第17回大会(貴州師範大学)において、雲南地域のテクスト研究に関する分科会が採択された(会場校都合にて延期)。また、雲南地域の書承文化に関する研究書を企画・編集し、「アジア遊学」の特集号として出版した。
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