計画最終年度である令和元年(平成31年)度は、過去3年間の総括という観点から主に以下3点の活動をおこなった。 (1)北タイにおけるリテラシーに関する補助的調査:チェンマイ県内において、タイ在住のワ族に対する方言調査をおこない、文字やテクストに関する社会言語学的状況の把握をおこなった。北タイのワ族はローマ字表記法の存在についての認識はありつつも使用実態に乏しいこと、タイ文字の使用が一般的であることが確認された。 (2)テクスト化作業:チェンマイ県において、パラウク・ワ集団から得た口頭伝承に関して、テクスト化作業および分析をおこなった。 (3)成果公開:これまでの調査研究活動によって得られた知見について、口頭および論考として成果の公開に努めた。10月に韓国全北大学において開催されたEast Asian Anthropological Associationの第18回大会において、雲南地域のテクスト研究に関する分科会を主催し、言語表象物と言語表象活動に焦点をあてた新たな研究領域の創出について提言をおこなった。11月に釧路公立大学で開催された地域・産業研究会に講演者として招待され、東アジアから東南アジアにかけての文字喪失伝承の類型、および無文字社会にあったワ族の文字やテクストに対する文化的態度について分析をおこなった。また、年度末にくろしお出版より出版されたパラウク・ワ語の記述文法書において、最新の社会言語学的知見を公開した。
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