私たちは文字表記に囲まれて暮らしている。文字表記は明らかに後発的な文化であり、私たちも過去のある段階で文字表記と出会い、依存を深めてきたはずである。本研究では、無文字から有文字へと日常を変えつつあるワ族を通して、人間と文字表記との関係の解明に取り組んだ。ワ族社会において、文字表記やそれによって記されたテクストは「コト」を記す媒体ではなく、唯一無二の「モノ」としての特徴を垣間見せる。ICT技術が発達し、文字表記を介した情報のやり取りはますます頻繁に、かつ無自覚なものになっていくだろう。文字表記との本質的な関係を知ることは、私たちの過去から今日を省み、未来を定めることにも役立つはずである。
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