本研究では、「母語の音素としての許容度」という観点から、外国語の知覚と母語の知覚を統一した現象として捉える可能性について検討した。具体的には、(1)母語音声を知覚する際の、母語音声としての許容度の役割についての調査、(2)外国語音声における、音声の「母語の音素」としての知覚的許容度の調査を行った。特に、(2)については、そのような容認度はどのような要因によって変化し、知覚に影響を与えるのかを調査した。ある音声が、音声カテゴリーとして構築されているか否かについては、カテゴリー知覚という現象から観察する事ができる。カテゴリー知覚は、子音知覚に起こりやすいとされている事から、当初、子音に特化した研究計画を立て、進めていた。カテゴリー知覚の調査は、合成音声を用いることで、正確かつ効率的に行うことができる。しかし、本調査では、母語・外国語を知覚した際の許容度を測定させるという特性上、合成音声を使うことは、その質がその測定に影響を与える恐れがあった。そのため、そのような影響ができる限り最小限となるよう、刺激音の作成と方法について、慎重な検討が行われた。結果、予備実験や予備調査を行うなどする過程で、言語音声としての許容度、および母語・外国語としての許容度の判断は、聞き手の音素知識だけでなく、個々の刺激音の特性(刺激音にどの母音を使っているか、および、フォルマント周波数等、刺激の詳細の数値の違い)にも影響を受けるという新しい知見が示唆された。そして、母音の知覚に基づく指標が有効であることが示唆された。そこで、最終年度は、英語の弱化母音を日本人が知覚する際の知覚パターンに焦点をしぼり、母語としての許容度との関係を調査した。成果について報告した論文について出版の手続きを進めていたが、手続きが最終年度中に終了しなかったため、返納した。
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