研究課題/領域番号 |
16K16834
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
守田 貴弘 東洋大学, 経済学部, 准教授 (00588238)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ダイクシス / ジェスチャー / 意味の進化 / 言語相対性仮説 / 日仏対照 / 発話実験 |
研究実績の概要 |
本研究は日本語とフランス語におけるダイクシスの表現頻度の相違(日本語では頻度が高く,フランス語では低いことが以前の研究で確認されている)に認知的な要因が関与しているかどうかを検証することを目的とする.そのため,本研究では言語表現に付随する非慣習的なジェスチャーも観察するという検証方法をとる.本年度は,ジェスチャーと思考に関する先行研究をレビューしつつ,データを収集するための実験ビデオを作成した.さらに,数名の日本語話者を対象に予備実験を行い,指示の出し方等を検討した後,フランス国立東洋言語文化研究院にて,45名のフランス語話者を対象に本実験を行った.日本語話者に対する本実験は来年度になるため比較の見通しはまだないが,フランス語話者が言語ではダイクシスを表現せず,ジェスチャーで表現する傾向が見出されている.フランス語話者においては伝達内容が言語とジェスチャーで分業されているのに対し,日本語話者ではそのような分業がないだけであり,認知的な影響はないという結果が予想される経過である. 他方,言語進化における議論ではジェスチャーや指差しが起源になっているとする議論がある.ジェスチャーで表すことのできる意味の範囲と,言語を使うことで表現可能となる意味の範囲を検討するために,主として表象の進化という観点から言語進化の議論における意味の扱いについても検討した.来年度も引き続き検討を進めていく必要はあるが,現時点では,言語のジェスチャー起源論での主張は,言語が使えることと同等の高次表象能力を必要とする例に基づいているため,ジェスチャーが前言語的とは断じられないと考えられる.この問題については,特に,意味がいかに共有可能になるのか,言語が使えるために必要な条件とはどういうものなのかという観点から議論するため,「言語起源論の現在」というシンポジウムを開催した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究予定としていた実験のうち,努力目標を大幅に超えるフランス語話者を被験者として協力してもらうことができ,29年度に予定している映像の分析,発話の書き起こしといった作業にスムーズに入ることができる状態となった.他方,日本語話者に対する実験はまだ実施できていないが,実験材料の簡単なローカライズによって実験を行うことができる状態となっており,必要な機材等も揃えることができた. 先行研究のレビューを行う間に,ジェスチャーや指差しといった行動を可能にするための条件という,新たな意味論的・言語進化論的課題も見つかった.脳科学と関連づけられた表象の進化の議論を考慮することにより,言語進化の研究に寄与する可能性があるだけではなく,本研究固有のテーマに含まれる問題圏のうち,ジェスチャーによる意味表示と言語による意味表示の同質性と相違を分析する上で,より強力な主張を展開することが期待できる展開となっている.
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今後の研究の推進方策 |
まず,日本語話者を対象とした実験を行うために,実験材料のローカライズを行い,所属研究機関において被験者の募集および実験を実施する.これと並行して,実験済のフランス語のデータについては映像を対象クリップごとに分割・分析し,発話内容もクリップごとに書き起こすことにより,ジェスチャーと言語表現を同時に分析できるように準備を行う. 分析にあたっては,言語的なダイクシス表現の有無を確認するのは問題にならないが,ジェスチャーがダイクシスを表しているかどうかの判定には明確な基準が必要となる.言語表現として方向表現や移動動詞の使用とのシンクロなど,一定の基準を定めることにより,分析対象とするジェスチャーを抽出した後,それらのタイプ(どの方向に手を動かしているかなど),言語が表す内容との一致や齟齬(言語表現と食い違う),補助(言語表現に欠けている情報を補う)といった観点から分類を行う.また,その後の分析を簡便にするため,集計の方法等も検討する. 表象の進化についても理解を深めるため,Chalmers, Damasio,Doretskeといった主要文献の調査を並行して行い,実験研究の分析段階にいかに反映させていくかを検討していく.
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