本研究は副詞と前置き表現に注目して配慮表現の歴史的変遷を明らかにすることを目指すものである。事業期間全体の主な研究業績は以下のとおり。 行為指示(依頼・勧め)と感謝・謝罪における配慮表現の歴史的変遷について、一定の成果が得られた。行為指示については、「すみませんが」「よろしかったら」などの前置き表現の定型化のありようを記述し、標準語の確立・普及との関連などを指摘した(【論文】「前置き表現から見た行為指示における配慮の歴史」高田博行・小野寺典子・青木博史編『歴史語用論の方法』ひつじ書房、2018年5月)。感謝・謝罪については、副詞「どうも」が「すみません」や「ありがとう」などと結びつきを強める変化を記述した(【論文】「感謝・謝罪に見られる配慮表現「どうも」の成立」近代語学会編『近代語研究』21、武蔵野書院、2019年秋刊行予定)。配慮表現「どうも」の成立は最終年度に実施した研究の成果である。 さらに、本研究課題の研究の進展とともに見えてきた重要な関連現象についても成果が得られた。行為指示における配慮を表す「どうぞ」「どうか」の歴史的変遷と関わる、「どうやら」の歴史を記述した(【論文】「副詞「どうやら」の史的変遷」『語文研究』第124号、九州大学国語国文学会、2017年12月)。また、これらの副詞に関連する不定の助詞の東西差と歴史的推移、関連する文法変化についても記述した(【論文】「不定の「やら」「ぞ」「か」の東西差と歴史的推移」金澤裕之・矢島正浩編『SP盤落語レコードが拓く近代日本語研究』笠間書院、2019年刊行予定)。そのほかに、副詞を視点として古代語と近代語の違いを考察し、副詞の呼応する意味が分化する場合があることを指摘した(【発表】「仮定、可能性想定を表す副詞の史的展開―近代語の分析的傾向の一例―」近代語学会研究発表会、白百合女子大学、2017年12月9日など)。
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