研究課題
本年度の主たる研究実績の概要は次の通りである。1.親族名称の「子供中心的用法」(例:妻が夫を「パパ」と呼ぶ)を、使用場面に応じた4つのタイプに下位類型化した上で、他言語との比較対照に基づき、子供中心的用法の下位類型化が通言語的な含意階層として一般化可能である点を論じた(「親族名称の子供中心的用法の類型と場面、視点―対照語用論的アプローチ―」『場面と主体性・主観性』ひつじ書房)。2.「くれる」が求心的授与の方向に意味領域を縮小させ、受け手寄りの視点制約を成立させた要因・背景について考察を行った。中世期に「やる」が移送用法との類比(アナロジー)により授与用法を確立させ、非求心的授与領域内で「くれる」と「やる」が競合するが、通常の授与場面では、待遇的に中立的な、または、「くれる」に比べ相対的に丁寧な、「やる」の選択意識が高まり、中世期(室町期)から近世期にかけて、「くれる」は、次第に非求心的授与の意味領域から追い出されていき、求心的な方向性の制約、ないしは、受け手寄りの視点制約を成立させたことを論じた(「日本語の直示授与動詞「やる/くれる」の歴史」『国立国語研究所論集』18)。3.Stephen C. Levinson et al. (eds.) (2018)の論を紹介しつつ、それを発展させる形で、主に注意概念を中心に、空間指示詞の考察を行った(「指示詞研究の新展開―空間指示詞の類型論―(Stephen C. Levinson et al. (eds.) Demonstratives in Cross-Linguistic Perspective.の書評論文)」『語用論研究』21)。本研究によって、今後、(i)日本語学の研究において「ダイクシスの文法」という研究領域が開拓されること、(ii)「視点」の対照言語学的・歴史的研究の視界が開かれること、などが期待される。
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国立国語研究所論集
巻: 18 ページ: 149-180
info:doi/10.15084/00002545
語用論研究
巻: 21 ページ: 161-186
Logic and Engineering of Natural Language Semantics 16
巻: 16 ページ: Paper 16, 1-14
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