本研究は、首都圏東部域音調の「あいまい性」を客観的手法によって解明することを目的とした。 首都圏東部域(東京東北部・千葉西部・埼玉東部)の音調は、音声の高低差がはっきりとしておらず、ゆれも大きいといった特徴がみられると1940 年代から指摘されてきた。しかし、従来は聞き取りによる主観的方法による分析が中心で、調査域も限定的なものであったため、その実態には未解明な点も多く残されている。 本研究では、下降幅・相対ピーク位置といった複数の音響的指標を勘案し、それらの指標を用いた客観的分析手法を用いて、首都圏広域の音調を分析した。さらに、分析した結果によって話者や音調のタイプ分類を行う際は、統計的手法を用いることとした。 これらの分析により、聞き取りによる分析によって「聞き取りにくい」「高低差が微妙」と指摘されてきた当該域音調の「あいまい性」を詳細に明らかにした。具体的には、あいまいアクセント的特徴を有する話者には、「下降幅が小さい」こと、「語ごとの相対ピーク位置の区別が小さい」ことを指摘した。これは、従来の「高低差が微妙」という下がり目の有無にかんする音響的特徴が「あいまい」であることに加えて、下がり目の位置にかんする音響的特徴も「あいまい」であることを意味すると考えられた。この結果は、東京長身部に生育した明瞭なアクセント話者との比較によっても確かめられ、この二つの音響的特徴によりアクセントの「あいまい性」「明瞭性」の関係性も捉えられることを考察した。
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