研究課題/領域番号 |
16K16851
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研究機関 | 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所 |
研究代表者 |
坂井 美日 大学共同利用機関法人人間文化研究機構国立国語研究所, 言語変異研究領域, 特別研究員(PD) (00738916)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 活格性 / 分裂自動詞性 / 日本方言 |
研究実績の概要 |
従来、日本語の格については、諸方言を含め、対格型以外の型は無いと思われてきたが、申請者は、これまでの研究において、現代方言に対格型とは異なる型が存在すること、具体的には、三立型や、活格的な特殊な型(九州方言に観察され、仮に「分裂S型」と称している。主語の標示が意志性で分裂し、他動詞文主語と意志自動詞文主語が同標示、非意志自動詞文主語が異標示、他動詞文目的語も異標示となるもの)があることを証明してきた。特に分裂S型は、世界言語にみられる「活格型」とも異なっており、「日本語=対格型」という固定概念を変えるばかりでなく、一般言語学にも議論を提示しうる。 平成28年度は、九州肥筑方言と南琉球宮古語を中心に調査を行ない、面接調査と談話収集を進め、論文を執筆した。まず、九州肥筑方言は、2種の主語標示(「ガ」「ノ」)を用いており、予備調査段階から、上述の活格性(分裂S型)が見込まれていた。今回は特に、熊本市方言、博多方言の調査を行ない、両方言に活格性があることを確認した。南琉球宮古語は、九州肥筑方言と同様2種の主語標示を用いている。それらは九州の2種の主語標示と同じルーツであると考えられており(「ガ」「ヌ」)、九州・琉球の格配列の成立基盤を考察する上で重要である。平成28年度は、城辺と、伊良部で調査を行ない、2種の主語標示が、名詞句階層に沿って使い分けられていることを確認した。 成果は、木部暢子・竹内史郎・下地理則編『日本語の格表現』くろしお出版、および、竹内史郎・下地理則編『日本語のケースマーキング』くろしお出版に執筆し、いずれも出版確定である。また、成城学園創立100周年・大学院文学研究科創設50周年記念シンポジウム「私たちの知らない〈日本語〉―琉球・九州・本州の方言と格標示―」(2017/7/2、於成城大学)にて、講演が確定している(題目:「九州の方言と格標示―熊本方言の分裂自動詞性を中心に―」)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の進捗状況は、おおむね順調である。 「研究実績の概要」にも述べたように、従来、日本語には諸方言を含め、対格型以外の型は無いとされてきたが、申請者は、これまでの研究において、現代方言に対格型とは異なる型が存在することを実証してきた。特に、本研究で明らかにしつつある九州方言の活格的な型は、主語の標示が意志性で分裂し、他動詞文主語と意志自動詞文主語が同標示、非意志自動詞文主語が異標示、他動詞文目的語も異標示となるもの(仮に「分裂S型」と称している)であるが、これは世界言語にみられる「活格型」とも異なる、いわゆる新種の型である。「日本語=対格型」という固定概念を変えるばかりでなく、一般言語学にも議論を提示しうるものである。 具体的な進捗状況は、まず、調査と分析については、計画通りに進んでおり、本年度は熊本市方言(熊本県熊本市)、博多方言(福岡県福岡市)、宮古島城辺方言(沖縄県宮古島市)、伊良部島伊良部方言(沖縄県宮古島市)の調査を行なった。現段階までの調査を通し、これら4方言には十分な成果が見込まれる。平成29年度以降も、継続して調査を行ない、より詳細な分析を進めていく予定である。そして、現段階までの研究成果も、順調に発信を行なっている。「研究実績の概要」にも述べたように、論文2本(木部暢子・竹内史郎・下地理則編『日本語の格表現』くろしお出版、竹内史郎・下地理則編『日本語のケースマーキング』くろしお出版)の出版が確定しており、講演1本(「九州の方言と格標示―熊本方言の分裂自動詞性を中心に―」成城学園創立100周年・大学院文学研究科創設50周年記念シンポジウム「私たちの知らない〈日本語〉―琉球・九州・本州の方言と格標示―」(2017/7/2、於成城大学))が確定している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策としては、まず、先の「現在までの進捗状況」にも述べたように、平成28年度に調査を行なった4方言:熊本市方言(熊本県熊本市)、博多方言(福岡県福岡市)、宮古島城辺方言(沖縄県宮古島市)、伊良部島伊良部方言(沖縄県宮古島市)には、十分な成果の見通しが立っているため、これらの継続調査を行なう。平成28年度は、形式の洗い出しや、大まかな枠組みの調査が中心であったため、今後、より詳細な文法条件を考慮した分析を進めてゆく。加えて、格は、アスペクト、待遇、焦点、主題化など、あらゆる要因に影響を受けるため、当該方言の全体的な文法体系の把握も不可欠である。よって、文法概説や談話収集にもつとめてゆく。これは一方で、方言の記録・保存の観点からも重要な作業である。 また、従来の先行研究では、日本に対格型以外の型は無いとされてきたと、先の「研究実績の概要」にも述べたように、「日本語=対格型」という先入観もあり、日本語の格研究は遅れている。格配列の基本的な検証すら行われていない方言が多くあるというのが現状である。よって本研究では、格配列の様相が未だ明らかでない方言についても調査を加えてゆく。平成29年度は、九州1地点(鹿児島)、本州2地点(西日本1地点、東日本1地点)を対象に、格配列の洗い出しを行なう。 これらの作業により、日本方言の格配列の再検証と、その格配列の成立基盤やメカニズムの解明を実現する。
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次年度使用額が生じた理由 |
九州方言の調査において、方言話者とのご都合が合わなかった都合により、1回分の出張をキャンセルし、その旅費として計上していた約10万を、次年度分として請求した。方言調査は、話者に負担をかけないよう留意する必要があり、今回のキャンセルは、適切である。
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次年度使用額の使用計画 |
請求額については、鹿児島県を対象とする調査の旅費として使用する。この調査により、格配列の洗い出し作業と、文法環境の整理を行なう。
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