本研究で設定した「完了・結果指向構文(Get受動文・「てしまう」構文)のにおいて同種のモダリティが表出するのは決して偶然ではなく、完了・結果焦点という構文のアスペクト性に強く動機づけられているのではないかという仮説の立証に向けて、コーパスデータを用いてモダリティ表出の事例を収集し、結果指向構文にはモダリティ表出の強い傾向が確認できた。 本研究は以下の3つのステージを設定し、それぞれについて研究を進めた。 研究ステージ[1][想定されるモダリティ表出メカニズムの妥当性(共時的分析)]:日英語の完了・結果指向構文のアスペクト性によって含意される「事態の不可変性」がモダリティ表出の基盤となっていることを、主に共時的観点からの分析によって明らかにする。 研究ステージ[2][想定されるモダリティ表出メカニズムの妥当性(通時的分析)]:日本語の感動詞「しまった」等に着目し、完了・結果指向構文のアスペクト性が、モダリティ形式への言語変化を引き起こす可能性を通時的観点からの分析によって明らかにする。 研究ステージ[3][アスペクトとモダリティの相関性に関する言語一般性の検証]:完了・結果指向構文(他言語を含む)のアスペクト性とモダリティ表出の相関は言語一般性をもつのか、その可能性を検証する。 これら3つのステージによって、両構文の結果指向性から生じる「発生済みで変更できない事態である(事態の不可変性)」という含意(entailment)が、文脈による推論を経て、モダリティの表出に繋がっている可能性を指摘し、また、事態の不可変性というアスペクト的性質とモダリティ表出の相関性について検討することで、完了・結果指向構文におけるモダリティの表出は、構文のアスペクト性によって含意される事態の不可変性が、語用論的推論によってモダリティ表出、つまり、話者の感情の表出を引き起こしていることを明らかにした。
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