本研究は、日本語学習者のワーキングメモリに配慮した読解指導を行うための基礎研究として、主に漢字圏・非漢字圏日本語学習者のワーキングメモリと日本語読解能力の関係を明らかにしようと試みたものである。漢字圏学習者については、香港在住の大学生を対象に、非漢字圏学習者は日本の大学に留学中のマレーシア人留学生を対象にとり、調査を行った。調査では、まず、学習者のワーキングメモリを測定するためのツールとして、香港人・マレーシア人の母語版のリーディングスパンテストと双方に共通するものとして日本語学習者版のリーディングスパンテストを作成した。同時に日本語読解能力を多角的に測定するために、3種類の読解テストを作成した。さらに、日本語学習者の日本語習熟度によってワーキングメモリと読解能力の関係性が変わるのか調べるために、日本語習熟度を簡易的に測定するためのツールであるSPOTを調査に使用した。これら6種のテストを対象者に実施し、相関を中心とした関係性を分析した。 最終年度においては、漢字圏・非漢字圏学習者への調査を継続し、終了した調査の結果分析を行った。 調査の結果、漢字圏日本語学習者においては、日本語習熟度が上がるにつれてワーキングメモリとまとまった文章の内容を捉える読解能力の間に相関関係が見られた。特に習熟度上位においては、その傾向が強く現れた。一方、非漢字圏日本語学習者においては、日本語習熟度が非常に高いにもかかわらず、漢字圏学習者で見られたような、ワーキングメモリとまとまった文章の内容を捉える読解能力の間に相関関係は見られなかった。 両者で異なる傾向が現れ、非漢字圏学習者においてはワーキングメモリが文の認知処理により多く消費されていることが明らかとなった。 これらの結果は、日本語教育学会等関連学会で発表した。
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