日本語テレビを出発点とした本研究は、年度を経、フィールドワークを重ねるたびに「世代の結び目」たるメディアの探求へと展開していった。昨年度から継続してとりあげたのが絵本(Picture book)である。とりわけ2010年以降、「ハワイ/アメリカに移住した日系人の物語」をテーマにした絵本が、日米それぞれの言語で、ルーツやアイデンティティを異にする多様な書き手によって制作・出版されている。共通するのは、日系1世、2世と直に接した経験をもつ若い世代が「記憶の継承」を意図していること、耐年数が長く、モビリティにも長け、語り手という演者(大人)と聞き手(子ども)の共同性を喚起するメディアとして絵本が活用されていることである。本年度は、絵本の語り手=演者としての「母」なる主体がいかに記憶の継承者として期待されてきたのかについて問う小論を執筆した。本研究の最終成果について、「テレビ」から「絵本」へのメディア史としてまとめる構想を立て、学内外の研究者と交流を持ちながら執筆を進めている。 また、「記憶の継承」という問いを大きく揺るがす大事件が研究フィールドで起きた。2023年8月8日のラハイナ大火である。一夜にして町全体が焦土と化し、100名を超える犠牲者と、インフォーマントを含む2万人以上の被災者を出した。先祖供養と地域共同体の中心であった寺院も焼失する惨事において、コミュニティの再建に奔走するリーダーたちへの聞き取り(オンライン通話)も始めている。ラハイナで少女時代を過ごしたパリ在住のアーティストで、「日系人の記憶」を現代や異文化の文脈に蘇らせる芸術活動を続けるMiki Nitadoriと協同しながら、フィールドによりコミットした研究成果の公表を検討しているところである。
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