中国語教育における文法記述は、言語学の既存成果に大きく依存している。しかし、学習者にとって各文法項目の機能には難易度の差が見られるため、従来の成果だけでは十分に説明できない。本研究では、難しいと考えられてきた機能語「了1」「了2」「着」「過」「就」「才」に焦点を当て、某大学の初級中国語履修者を対象に、横断的調査を用いてそれぞれの機能語の習得難易度を推定した上、同じ機能語の異なる機能には難易度の差が認められた。このような差が生まれた理由として、母語の転移と文構造の複雑さが挙げられる。そこで、可能な限り難易度の差を軽減するため、筆者は主にインプットの頻度という観点から複数の実験を行い、より効果的な教授法を実現するための提案を行った。具体的には、学習後にほぼ同じ練習時間を2回、3回、4回にわけ、間隔を空けてインプットを与えることで、学習効果にどのような影響が出るのか調べてみた。「了1」と「了2」を例として説明すると、2回のインプットを与えた場合には、正解率が非常に低く、12.2%-62.8%程度になっていることがわかった(劉2018)。また、インプットを3回与えた場合には、正解率が70.7%-84.2%に上昇したことが示唆された(劉2019)。さらに、4回実施した場合には、正解率は85.2%-99.6%に達していることが判明した(近刊)。なお、インプットの頻度以外、指導順序、文法構造の複雑さ、インプットの間隔なども、学習効果に影響を与えると考えられる。 これまでの先行研究の成果を踏まえて、本研究の結論として、困難な機能語を教える際には、定着率を高めるためには少なくとも3回以上のインプットを、学習後に3日から4日程度の間隔を空けて行うことが必要であることが推定された。また、指導を行う際には、その意味、用法の側面よりも、文法構造など形式的な側面に注目すべきことが示唆された。
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