研究代表者は2021年9月より産前産後休業および育児休業期間に入ったが、当初予定していたとおり、2020年度から継続しているELF話者のアイデンティティおよび相互行為に関するデータ分析と文献研究を、可能な範囲で行った。そしてその成果の一部を、論文「共通語としての英語(ELF)話者のアイデンティティ研究におけることばの相互行為分析とナラティブ・アプローチの融合の可能性」として公開した。この論文では、第二言語話者のアイデンティティに関する研究において近年求められるようになってきた「ことばの相互行為分析」と「ナラティブ・アプローチ」を融合した方法論について、その有効性や課題を探った。 一方で、時間的な制約や内容の新規性から、上記の成果はあくまでも試論的なものに留まらざるを得なかった。したがって、引き続きデータ分析と文献研究を進めることで、①ことばの相互行為のなかでどのようにELF話者のアイデンティティが形成され、また変容するのか、②ELFコミュニケーションがより広範な社会的・文化的構造をどのように反映しているのか、③言語学における相互行為分析とナラティブアプローチの融合がもたらす知見は、ELFとアイデンティティに関する先行研究との対比においてどのように位置づけられるのかの3点を精査した。現在はその内容の論文化を進めている。総じて、ELFとアイデンティティ研究の新たな方法論の可能性が示唆されたことは、本研究の研究期間全体を通じた重要な成果であると考えられる。
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