最終年度の研究成果としては、満洲国軍の満系下級軍官の日記である、吉林省政協文史資料委員会ほか編『轍印深深 一个偽満軍官的日記』などの分析を進め、日本植民地研究会全国研究大会で発表を行った。その内容をもとにした論文が、同研究会誌において掲載される予定である。また関東軍司令官を務めた時期の立花小一郎の日記の翻刻作業を進め、『News letter』に発表した。関東軍と張作霖の関係などの内容を含んでおり、改めて同日記の重要性を確認した。 次に研究期間全体を通じて実施した研究の成果としては、第一に日本の傀儡軍たる満洲国軍の特徴を明らかにすること、第二に満洲国軍を日本植民地史の文脈に位置づけること、第三に満洲国軍を中国東北史の文脈に位置づけることを通じて、満洲国軍が有した歴史的意義を明らかにするという目的に沿って、予定通りに研究が進捗したことが挙げられる。 論文「日露戦争期から辛亥革命期の奉天在地軍事勢力」では、日本軍が日露戦争において特別任務班として諜報などに利用した馬賊勢力や、留学を奨励した日本陸軍士官学校への留学生がやがて張作霖率いる奉天派内で一定の地位を築いたことを論じた。また「『満洲国軍』創設と『満系』軍官および日系軍事顧問の出自・背景」では、満洲事変においてそれら任務班出身者や陸士留学生がいかに満洲国軍に参加していったかを論じた。「『満洲国軍』の発展と軍事顧問・日系軍官の『満系』統制」では、日本による統制をより強めるため、満系軍官やモンゴル系軍官の世代交代が進められていったことを明らかにした。以上の論文をもとに、これまでの一連の研究をまとめて、『帝国日本の大陸政策と満洲国軍』(吉川弘文館、2019年)を上梓した。同書では、日本の大陸政策を満洲国軍に参加した在地勢力の視角から眺めることを意図し、日露戦争に始まる前史から満洲国崩壊、朝鮮戦争までを視野に入れて論じた。
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