本年度は「平沼・鈴木閥」が司法省の刑事政策と検察にどのような影響を与えたのかについて、分析を進めた。具体的には、「山岡萬之助関係文書」、「平沼騏一郎関係文書」(国立国会図書館憲政資料室所蔵)や『法律日日』、『法律新聞』、『思想月報』、『思想月報』など、関連する史料や新聞、雑誌を幅広く収集し、分析を進めた。残念ながら、本年度中に論文としてまとめるまでには至らなかった。 ただ、今年度の調査・分析を手がかりとして、歴史的実証をかためていくべき仮説を二つ得た。 第一として、明治30年代半ばから大正期にかけて今日に通じる「精密司法」の源流が形成されていくが、それはいくが、平沼を中心とする検察の捜査、起訴便宜主義の徹底によりもたらされた可能性があることである。 第二に、戦後に至るまで検察の犯罪者の更正、社会復帰の重視の姿勢が日本の刑事司法の特徴として挙げられるが、それは明治末期以降、新派刑法学の台頭と儒教的思想により形成されていったのではないかということである。その特徴の形成に影響を与えた平沼は人の本来の性質には徳がそなわっており、それを遂げさせることを法の基本とすべきと主張している。
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