研究課題/領域番号 |
16K16913
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
大塚 紀弘 法政大学, 文学部, 講師 (10468887)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 印刷 / 版本 / 律三大部 / 宋版 / 中世 |
研究実績の概要 |
本年度は、研究計画に沿って(1)輸入宋版の研究、(2)律三大部版本の研究、(3)研究成果の公表の3つの方向で作業を進めた。 (1)としては、天理大学附属天理図書館の所蔵する『明州阿育王如来舎利宝塔伝・護塔霊鰻菩薩伝』の版本を主な対象として研究を進めた。この版本は南宋代の刊行とみられ、冒頭に「高山寺」印があることから高山寺の旧蔵と判明し、『高山寺聖教目録』に見える「明洲〔州〕育王山霊鰻伝一巻」に当たると考えられる。賛寧が撰述した『舎利宝塔伝』と『護塔霊鰻伝』を合わせた書物で、両書ともに中国仏寺史志彙刊の『明州阿育王山志』に収録されているが、南宋版と文字の異同がある。そこで、両本を校合し、異同箇所について考察した。 (2)としては、中国唐代および宋代に撰述された戒律関係の仏典を集成した律三大部の版本を主な対象として研究を進めた。泉涌寺(京都市)所蔵の律三大部版本については、基礎的な資料調査を終え、平成28年度に『御寺泉涌寺の中世版本―泉涌寺蔵律三大部版本調査研究報告書稿―』を刊行した。律三大部版本は、泉涌寺の他に京都市の高山寺、東寺、奈良市の東大寺、唐招提寺、横浜市の称名寺などが所蔵している。そこで、泉涌寺本と関連する律三大部版本に重点を置いて、それぞれの性格についての考察を進めた。 (3)としては、これまでの研究をふまえて、論文「鎌倉時代の日宋交流と南宋律院―律書版本と教学の伝播―」(『日本歴史』825号)を公表した。また、研究成果を社会に還元する活動の一環として、『週刊仏教タイムス』2675~2684号に「鎌倉仏教と印刷メディア」と題し、10回にわたって小文を連載した(「印刷技術の伝来と発展」「興福寺の「教科書」」「版本一切経の衝撃」「明恵の見た「ウナギ」」「戒律の「教科書」」「禅院と渡来人」「『選択集』出版の波紋」「日蓮の見た『選択集』」「一遍の念仏札」「版本一切経と輪蔵」)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね当初の計画に沿って、輸入宋版や律三大部版本に関する研究を着実に進めることができたから。また、研究成果の一部を論文や小文のかたちで公表することができたから。
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今後の研究の推進方策 |
京都市の高山寺、東寺、奈良市の東大寺、唐招提寺、横浜市の称名寺が所蔵している律三大部版本の調査・研究を重点的に行なう。また、調査研究報告書の刊行を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査先等の事情で年度内に資料調査ができず、旅費が当初の見積もりより少なくなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度の旅費および物品費として使用する。
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