本年度は、研究計画に沿って(1)律三大部版本の書誌学的研究、(2)版画の図像学的研究、(3)研究成果の公表の3つの方向で作業を進めた。 (1)としては、前年度に引き続いて中国唐代および宋代に撰述された戒律関係の仏典を集成した律三大部の版本を主な対象として研究を進めた。泉涌寺(京都市)所蔵の律三大部版本については、基礎的な資料調査を終え、平成28年度に『御寺泉涌寺の中世版本―泉涌寺蔵律三大部版本調査研究報告書稿―』を刊行した。今年度は、特に東大寺(奈良市)の所蔵する律三大部を中心とする戒律関係仏典の版本を対象とし、泉涌寺所蔵の版本と比較・検討した。その結果、泉涌寺所蔵の版本と関係の深い版本を見出すことができた。 (2)としては、六字名号および阿弥陀三尊来迎図の版画および版木を対象とした。版画(御札)はスイスのジュネーブ民族学博物館が所蔵しており、法政大学国際日本学研究所の事業で構築された「在欧博物館等保管日本仏教美術資料データベース」(JBAE)に登録されている。その図像は、当麻寺の中之坊(奈良県葛城市)の所蔵する室町時代の刺繍六字名号および阿弥陀三尊来迎図を基にしたものと考えられる。同じく中之坊の所蔵する六字名号および阿弥陀三尊来迎図の版木と比較・検討した。その結果、中之坊所蔵の版木を使用して、ジュネーブ民族学博物館所蔵の版画が刷られた可能性が高いことが明らかとなった。 (3)としては、これまでの研究成果をふまえ、「『雨珠記』と正応四年の紀州由良隕石」「鎌倉南北朝期の一遍時衆と別時念仏」などの論文を執筆し、一部を公表した。また、研究成果報告書の次年度刊行に向けて執筆を進めた。
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