研究課題/領域番号 |
16K16914
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
廣木 尚 早稲田大学, 大学史資料センター, 助教 (00756356)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 史学史 / 郷土史研究 / アカデミズム史学 / 歴史地理学 / 研究者ネットワーク |
研究実績の概要 |
研究二年目にあたる本年は、①前年度に実施した栃木県足利市・佐野市での調査成果の原稿化と、②前年度に積み残された専門誌の関係記事の分析、及び研究計画にもとづく出張調査を行った。 ①については、論文「中島久万吉筆禍事件の社会的背景」を執筆した(平成30年10月公開予定)。また、第9回国家神道・国体論研究会(29年7月・国学院大学)、及び「近代日本と東アジアに成立した人文学の検証」ワークショップ(30年2月・早稲田大学)で口頭報告を行い、成果の一部を発表した。 ②については、最初期に設立された「地方史学会」(奥羽史学会・九州史談会・北陸史談会)について、事前調査として『史学雑誌』『歴史地理』を中心に専門誌の関係記事を分析した上で、所在地である仙台市・熊本市・金沢市での出張調査を実施した(29年9月、30年3月)。出張調査では関係資料の確認と収集を進めるとともに、各「地方史学会」の会員とその所属の調査、事務所所在地の実地踏査等を行った。その結果、各学会とも旧制高校及び師範学校の教員・学生が会員の多くを占め、事務所は旧制高校の近隣に設けられたことや指導的人物の存在等が判明した。また、九州史談会の小林庄次郎、北陸史談会の日置謙等、その後、アカデミズム史学や郷土史研究において大きな位置を占めることになる人物が会員であったことも判明し、「地方史学会」と中央のアカデミズム史学や、後年の郷土史研究との関係について一定の見通しを得た。 特に、後に帝国大学に進み、日本歴史地理研究会の創設と運営に関わることになる小林が、高等学校時代に「地方史学会」の会員であったという事実は、全国的歴史学会が形成される前提に、「地方史学会」での経験があったことを示唆しており、日本近代史学史に新たな知見をもたらす可能性を持つ発見といえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度、足利市での出張調査を前倒しで実施したこともあり、本年度は研究計画通り、仙台・熊本・金沢での出張調査と、前年に積み残された専門誌の分析に注力することができた。その結果、「地方史学会」の実態と歴史的位置について一定の成果が得られ、前年度の遅れは挽回しえたといいうる。もっとも、「地方史学会」の実態が明確となるにつれ、新たに解明すべき課題も増加しており、それに取り組むため、出張調査の追加など研究計画の見直しも必要となった。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度のため、これまで収集した史料を精査して研究成果公表の準備を進める。具体的には、奥羽史学会・九州史談会・北陸史談会各々の人的構成を分析し、人脈の側面から「地方史学会」の史学史的位置を論証した研究論文を執筆し、学会誌への投稿を行いたい。この作業を進めるにあたり、仙台市・熊本市・金沢市での補足的・追加的な調査を実施する。また、北陸史談会については活動範囲が福井県や新潟県など広範囲にわたっていることが判明したため、必要に応じてそれらの地域での調査も行いたい。追加調査の費用は29年度の繰越金を充当する。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査資料の内、データベース化の進展や、デジタルカメラでの撮影が可能であったこと等により、当初予定より複写費用を圧縮することができた。他方、調査の過程で平成30年度に北陸地方に追加的な出張調査を行う必要が浮上したため、29年度に実施する予定だった英語文献の翻訳をとりやめ、その分の費用を繰越金として30年度の出張費用に充当することとした。
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