研究課題/領域番号 |
16K16920
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
上田 裕之 筑波大学, 人文社会系, 助教 (70581586)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 清朝史 / 貨幣史 / 財政史 / 档案 / 雲南省 / 雲南銅 / 銅政 / 制銭 |
研究実績の概要 |
本年度は、18世紀後半の雲南省における銅の生産費用増大、雲南省から銅廠(銅山)に先払いされた銅価の未回収(廠欠の発生)、銅の不正流通の横行という雲南銅政の変調を示す3つの現象の実態を解明すべく、『宮中档乾隆朝奏摺』『宮中档朱批奏摺財政類』『内閣漢文題本戸科貨幣類』『明清档案』『乾隆朝上諭档』などから関係史料の収集と分析を行った。 また、日本中国史学会からの依頼を受けて、清代前半の貨幣史をめぐる国内外の研究動向を整理し、「清代前期の制銭供給政策と档案史料をめぐって」を執筆した。本稿は、2017年10月刊行の『中国史学』第27号に掲載される予定である。本稿においては、研究の初期(1970年代以前)には市場の安定化を目的としたものとして自明視されていた制銭供給政策に関して、1970年代後半から数多くの档案史料が利用可能になったことによって清朝政府の固有の論理が段階的に明らかとなった経緯を跡づけた。そして、清朝の制銭供給政策によって多大な影響を被った清代貨幣史の展開を理解するためには、档案史料に基づいて当該政策の形成過程を内在的に解き明かすとともに、当該政策と市場の需要との不整合が事態を動かしていくさまに十分注意する必要があることを指摘した。 また、筑波大学人文社会系において行われたワークショップ「文字に声を聞こう!―写本・古文書・档案+人文情報学@筑波人文社会系」(11月23日)で「清代档案と政策史研究―貨幣史を例として―」と題して口頭発表を行い、本研究の成果の一端を報告した。 また、情報収集と意見交換を行うため、満族史研究会(5月28日)・日本アルタイ学会(7月15~17日)・社会文化史学会(9月25日)・内陸アジア史学会(11月5日)・歴史人類学会(11月6日)に参加した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
関係史料が膨大であるため、直接的な研究成果を論文の形で公表するには至らなかった。その一方で、幅広い読者・聴衆を対象とした研究動向整理や口頭発表(前掲)を行うなかで本研究課題を俯瞰して洞察を深めることができたので、次年度は論文発表にこれまで以上に注力したい。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、『宮中档乾隆朝奏摺』『宮中档朱批奏摺財政類』『内閣漢文題本戸科貨幣類』『明清档案』『乾隆朝上諭档』などの档案史料から関係史料の収集と分析を続けていく。本年度の基礎的な調査結果を拡充することによって、清代中葉の雲南銅政についてより構造的な理解が可能になると見込んでいる。 また、本課題の遂行を当然最重視しつつも申請時の問題意識にとどまることなく、清朝による東部ユーラシア統合という巨視的な観点から、漢地の北端に位置する首都北京を維持するための銀財政を陰で裏打ちするものとして漢地における銀銭併用の定着を再解釈するとともに、それを可能にした雲南銅政の歴史的意義について考えを深めていきたい。
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