研究課題/領域番号 |
16K16921
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研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
阿部 尚史 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 助教 (20589626)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ムスリム家族 / ムスリム女性 / イスラーム法文書 / 近代女性認識 |
研究実績の概要 |
当該年度は、西アジア、特にイランのムスリム家族とムスリム女性にかんする法文書を用いた研究を進めると同時に、イランの近代女性認識を比較史的に考察した。 前者の成果としては、2019年に刊行予定である森田豊子編『イスラーム・ジェンダー学シリーズ1 結婚』に「19世紀イランの婚姻契約文書に見える婚資」と題する論説を寄稿した。この研究は、通常の婚姻契約文書に加えて、シーア派特有の一時婚婚姻文書も取り上げている。一時婚はよく知られているものの、一時婚婚姻文書が具体的に分析されたことはほとんどなく、貴重な貢献と言えるだろう。 そのほか、法文書の調査に関する動向論文「「不安定」に満ちた文書調査――イランにおける文書館利用と文書調査」を『歴史学研究』980号に寄稿した(2019年2月号)。また法文書に関する資料集Hashem Rajabzade (ed.), Asnad-e Hoquqi va Qazai va Asnad-e Ebadi va Aine-ye Dowre-ye Qajar(カージャール朝期イランの法的権利関連・司法関連文書および宗教生活関連文書) の書評を『法制史研究』に寄稿した(現在印刷中)。イスラーム法文書に関する研究は日本の得意とするところであり、こうした研究成果を女性史・ジェンダー史の文脈に適用し、今後も課題研究を推進していく予定である。 近代女性認識に関する研究として、日本のいわゆる「良妻賢母」に類似する規範が西アジアにも存在することに着目し、比較史的・トランスナショナルな視点から分析を進めているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、19、20世紀イランの婚姻契約文書の分析を進めた。その一端として、イスラームのなかでもシーア派の婚姻の特徴について上記の論集に寄稿した。このほか、19世紀家族に関する世帯調査史料の分析も進めている。なお、関連する書籍の書評や研究動向を執筆したことで、予定していた研究の一端を進めることができたと考える。 また、近代女性観・家族観にかかわる研究も開始した。比較の対象として取り上げる予定の日本の近代女性にかかわる研究は非常に厚く、その全体像把握と整理にやや時間がかかっている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度にあたる2019年度は、史料の読解を推進すると同時に、成果の刊行を意識していく予定である。2019年9月に予定されているヨーロッパ・イラン学国際会議(於ベルリン自由大学)に、19世紀イランの世帯研究を応募している(現在審査中)。運悪く審査に漏れた場合には、年度末に予定されているペルシア語文化圏国際会議(デリー開催予定)に応募する予定である(5月末締切り)。このほか、家族の財産形成にかかわる論考を、中東家族史研究にかんする独仏研究プロジェクトの成果論集に寄稿する予定である。 このほか、可能ならば全体成果として、イランに焦点をあてた中東家族史にかんする書籍を準備したいと考えている。 また、都合があえば、当該分野を専門とする研究者を招聘し(秋から冬にかけて)、研究代表者の所属先などで研究会を開催することも考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
異動により本務校が変わり、2018年秋に予定していたヨーロッパにおける史料調査を行うことができなかったため、その分の旅費が次年度に繰り越された。2019年夏に代わりの調査を行う予定である。また、都合がつけば関連分野の研究者を招聘し、研究会を開催することも検討している。
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