研究実績報告者磯貝は、新型コロナウイルス感染症の拡大への対応のため、研究計画を一定程度変更して研究を進めた。たとえば、研究成果の口頭発表のための国外出張をしない代わりに、国外開催の、ウェブ会議システムを利用した学術会合に参加し、口頭発表を行うなどである。 1. 交付申請書記載の研究課題(1)について、特に「ロシア帝国=多宗派公認体制」論をベースに、法的多元性を説明する研究を行った。家族法(身分法)が宗教法に依拠する体制であり、それはムスリム臣民に対しても同様だったこと、そしてその制度は従来の研究のように法多元主義(legal pluralism)の概念を援用するのではなく、法源の多様性という理解によって説明する方がよいことを明らかにした。その成果を口頭報告「ロシア帝国法のなかのムスリムの法:宗務行政からみた場合」にし、また令和3(2021)年度刊行予定の学術論集の1章としてまとめた。これに関連して、ロシアの学術雑誌で、ロシア帝国論についての学術書Имперская политика аккультурации и проблема колониализма(Любичанковский(編))の書評を公刊した。 2. 研究課題(2)のための史資料の読解と分析について、報告者は作業を進めたが、成果発表をするには至らなかった。史資料の主なものは入手済みであるため、令和3(2021)年度にも作業を続け、学術会合での口頭発表をめざす。 3. イスラーム法の専門家であるウラマーの研究を進める一環で、ロシア科学アカデミー・ウファ連邦研究センター歴史言語文学研究所のマルスィル・N・ファルフシャートフ研究員と共同で、口頭報告“Memoirs by Volga-Ural `Ulama' in the Early Soviet Period”をまとめ、発表した。
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