研究課題/領域番号 |
16K16927
|
研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
飯田 祥子 龍谷大学, 文学部, 講師 (30769211)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 中国古代史 / 五一広場東漢簡牘 / 後漢 / 郡県制 / 『後漢書』 |
研究実績の概要 |
既発表五一広場東漢簡牘すべてをカード化し、語彙や書式を整理した。そのうち郡太守府発信文書については訳註原稿(「長沙五一廣場東漢簡牘 郡太守府発信文書訳註稿」)を完成し、平成29年秋には公刊される予定である。訳註作成過程で五一広場東漢簡牘の文書について、次のことが明確となった。1.独特のきまり言葉、定型句が多用されるが、それはすでに検討されている西北漢簡の用語と非常に近い。しかも西北漢簡よりも五一広場東漢簡牘のほうが長文の状態で出土しているため、漢代の行政文書用語を検討するためには五一広場簡牘は史料的価値がたかい。2.月令的発想に基づく指示命令が散見される。行政の末端にまで儒家思想が浸透していた、あるいは浸透していく過程を示す可能性がある。3.形態的には西北漢簡よりも多様である。地理的条件のちがいに基づくのか否かは今後の出土例に注意せねばならない。いわゆる両行簡は、幅がかなり広い。これまでは簡牘文書・書籍の収巻方法について、西北漢簡の形態を根拠として理解されてきたが、これは再検討が必要となる可能性がある。また実測図と写真が公開されている数点の簡牘は、復元製作を行った。これにより使用方法についての検討も行っている。 また研究協力者に一部の簡の検討を依頼して、一定の成果を得ている。 並行して『後漢書』の検討をおこなった。「公孫述政権の興亡」と題し、公孫述政権の興亡と地方豪族等との関係を考察した論考を完成し、他の研究者との合同検討会、査読をへて、平成29年秋ごろにはこちらも公刊される予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、既発表五一広場東漢簡牘を整理検討し、一部の簡については訳註を完成することができた。訳註作成では郡発信県受信文書について集中して取り組んだので、書式・用語の特色を把握することができた。そのため今後新たに五一広場東漢簡牘の公刊がすすむ、あるいはよく似た性質の簡牘が発見された場合にも、書式・用語から発信者・受信者を特定するための手がかりを得た。また郡発信県受信文書とは郡・県官府での業務そのものであるので、本研究での課題の一つである郡県制地方統治制度の再検討にむけた重要な示唆を得ている。それゆえ本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
|
今後の研究の推進方策 |
まず五一広場東漢簡牘中から、郡発信県受信文書を引用している文書を特定し、その特徴的な書式・用語を整理して、訳註を作成する。引用者は県廷やその属吏である可能性が高いと想定しているが、具体的に引用文を検討することで、郡からの指示命令がどう処理されたかをみることができる。その上で、郡と県の関係に関わる検討結果をまとめ、公表せねばならない。 また『後漢書』における郡県の業務の描写との比較検討も必要であると考えられる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
人件費・謝金支出が計画よりも少なかったことが最大の理由である。研究協力者二名に専門知識の提供を依頼していたが、二名とも多忙のため、うち一名から計画の半分程度の成果を得たにとどまった。よって支出は予定の四分の一程度となっている。 また旅費支出も計画よりも少なかったが、これは参加を予定していた研究会が居住地近隣で開催されることが多く、交通費が少なくなったためである。 物品費ではオーバーヘッドタイプのスキャナーを計上していたが、使い勝手に難があるようであったので、より一般的な機種のものを購入し、結果金額が低くなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
人件費・謝金については、引き続き予定していた協力者に提出を依頼する。また専門知識を提供可能な研究者がいるので、協力を依頼する。 旅費支出については、研究会・学会の出張が発生する予定である。 物品費については、関連する史料・研究書があらたに出版されているので、その購入に使用する。
|