五一広場東漢簡牘の訳註作成の成果をふまえ、本年度は『後漢書』との比較検討を行ない、以下の知見を得た。1.当該簡牘は用語の面で『後漢書』と共通性が高い。簡牘の研究が進んでいるのは西北地域から出土した前漢後期から後漢初期のものに対してであるが、それと比較して、言葉・表現が『後漢書』と近い。2.政治的背景を考慮すべき可能性。五一広場東漢簡牘は司法関係の文書が多く、その背景として地方官府の司法担当部局の廃棄文書であることが想定されてきた。しかし『後漢書』によれば、文書作成時期は外戚鄧氏が政権を主導した時期にあたる。鄧氏に関しては、司法、とりわけ冤罪から人々を救ったとのエピソードがよくみられる。このような状況からすれば、当該簡牘に司法・冤罪事件に関する文書がみられるのは、出土地点ゆえだけの問題ではなく、政治的事情に基づく時代背景を考慮すべきである可能性が想定される。 簡牘出土地は、地方官府であったとされているが、関連して後漢時代の地方官府の遺跡を実見した。官府遺跡は、北方地域において保存状態が比較的よい。そのため、内蒙古自治区にのこる漢代の郡・県等の遺跡を実見することで、地方官府の規模、位置関係、そして調査報告書のもつ問題点などを確認することができた。 五一広場東漢簡牘は、地方統治制度のみならず、後漢時代の政治や社会に関しても重要な史料であることが確認された。それゆえ、地方制度以外も含めて後漢時代史に関する近年の研究状況を把握する必要があり、研究状況を整理し、それをふまえて学界展望を執筆した。
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