研究課題/領域番号 |
16K16928
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研究機関 | 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所 |
研究代表者 |
渡邊 祥子 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 研究企画部, 海外研究員 (20720238)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | イスラーム改革主義 / アルジェリア |
研究実績の概要 |
今年度は、和文論文1本を出版、国際会議1件にペーパーで参加したほか、国際研究会を東京で開催した。 和文論文「草の根の支持基盤から見たイスラーム改革主義運動と植民地期のアルジェリア社会:先行研究とその問題」は、髙岡豊・白谷望・溝渕正季編著『中東・イスラーム世界の歴史・宗教・政治』(明石書店、2018年2月)第3章として刊行された。同論文は、イスラーム改革主義運動が19世紀末以降の中東・イスラーム世界で発生した歴史的背景について、既存の学説を批判的に検討しつつ、理論的課題を論じたものである。 代表者はまた、アルジェリアのティジウズ大学で2017年11月12-13日に行われた国際シンポジウムSavoirs et renouvellement des connaissances socio-anthropologiques et historiques sur le Maghreb(マグリブに関する知と社会学=人類学的、歴史的学問知の革新)の参加者として、植民地期アルジェリアにおける宗教教育の文化的位相を論じたペーパー「Les ecoles coraniques entre 1947 et 1954: Une analyse quantitative(1947年から1954年までのコーラン学校:量的分析)」を提出し、当該報告は最終プログラムに組み込まれた。渡航準備が間に合わなかったことにより出席できなかったが、当該報告の原稿をシンポジウムの場で主催者に代読してもらった。 さらに2017年5月9日、本科研と東京大学の共同で、M’hamed Oualdi (Princeton University, Department of Near Eastern Studies) 氏を講師に招き、北アフリカにおける近代化改革の概念を再考する国際研究会を開催した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、先行研究史の整理と理論的問題の解明、アルジェリアの事例を取り上げる意義について論じた論文「草の根の支持基盤から見たイスラーム改革主義運動と植民地期のアルジェリア社会:先行研究とその問題」を、共著論文集の1章として和文で出版した。これにより、本科研が取り組む問題と研究の射程を明らかにした。 また、昨年度のアルジェリアでの現地調査で収集した資料を利用し、主に量的分析の方法を用いて、フランス学校による教育がムスリムに普及しつつあった植民地期後期のアルジェリアの文脈において、アラビア語による宗教教育(ここにおいて、イスラーム改革運動組織が設立したアラビア語学校が重要な地位を占めている)が有していた文化的位相について分析したフランス語の論文「Les ecoles coraniques entre 1947 et 1954: Une analyse quantitative(1947年から1954年までのコーラン学校:量的分析)」を、国際シンポジウムに提出した。上述の通り事務的問題により学会に直接行くことができなかったが、代読ではあったが報告を行うことができ、シンポジウム成果の出版にも参加できる見込みである。 さらに、M’hamed Oualdi氏を招いての国際研究会においては、オスマン朝期のタンズィマート(近代化改革)にさかのぼりつつ、北アフリカにおける「(近代化)改革」の概念を再検討する有意義な議論を行えた。 以上から、国内への成果還元と国際ネットワーキングの両面で充実した研究と発信を行うことができたと考える。他方で、今年度はアルジェリア現地での調査ができなかったため、予定していた研究の一部が行えなかった。そこで来年度は、なるべく早い時点でフランス等で調査を行い、研究成果を日本でのワークショップで報告することを目指す。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の課題は、アルジェリアを事例に、イスラーム改革主義の社会経済的な基盤と運動のメカニズムを明らかにすることであった。和文論文「草の根の支持基盤から見たイスラーム改革主義運動と植民地期のアルジェリア社会:先行研究とその問題」により、イスラーム改革主義の発生に関するアーネスト・ゲルナーの仮設の重要性と、その問題点を明らかにした。さらに、昨年度のアルジェリアでの文書調査の成果に基づくペーパー「Les ecoles coraniques entre 1947 et 1954: Une analyse quantitative(1947年から1954年までのコーラン学校:量的分析)」において、植民地期後期のアルジェリアでアラビア語の宗教教育を受けていたムスリムの割合がより高い地域は、非識字率がより低く、フランス語とアラビア語のバイリンガル識字の割合がより高いという一般的傾向があること、アルジェリアのイスラーム改革主義を牽引したウラマー協会傘下のアラビア語私立学校の生徒にも、フランス学校とのダブルスクールの事例が多かったことを明らかにした。 こうした一般的な傾向を明らかにした後で、細かいタイポロジーを作成してパターンごとのイスラーム改革主義運動の展開を分析するのが当初の計画であったが、アルジェリアでの現地調査が困難であることで、細かい地域ごとのデータの現地での入手は難しくなってしまった。今後は、現在手持ちの資料と収集可能な資料を用い、また、スーフィー教団やザーウィヤの果たした役割についての最新の研究状況を参照しつつ、フランス語普及地域とそうでない地域でのイスラーム改革主義のパターンを明らかにすることを試みる。また、関心を共有するアルジェリア人研究者を招いて日本でワークショップを行い、成果論文を国際誌で出版することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はアルジェリアでの国際シンポジウムに参加する予定だったが、事務的問題により渡航をキャンセルせざるを得なくなった。これにより、現地渡航に用いる予定だった分の予算が未使用で残ることとなった。 来年度は、同様の問題が生じる事態を回避するため、渡航先をフランス等に変えて現地調査を行う。また、調査報告の場も日本とし、研究関心を共有するアルジェリアの研究者を日本に招聘して報告会を行う形とする。ただし、成果をアルジェリアの読者にも還元できるよう、成果報告や出版はフランス語ないし英語で行うこととする。
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