今年度は3年間の総括のため、東京でフランス語による国際ワークショップ「植民地期アルジェリアにおけるウラマーとスーフィー教団再考:社会経済的変容と政治文化的思想」を2019年1月20日に主催した。研究代表者は基調報告「ウラマー/マラブー二項対立の再考:アーネスト・ゲルナーのナショナリズムとイスラーム改革主義理論は植民地期アルジェリアに適用できるのか」で、フランス植民地期の東洋学研究に起源を持ち、人類学者ゲルナーの議論にも影響が見られる、イスラーム社会の二元論的理解(ウラマーと聖者、地方と都市、ナショナリストと親フランス勢力等に、イスラーム社会を分割)がイスラーム改革主義の理解をゆがめてきた点を指摘した。そして、アルジェリア南部のビスクラの事例を元に、改革主義運動が実際には上記の二分法が想定する境界を越えて展開していたことを論じ、都市的、ナショナリスト的、ピューリタン的といったイスラーム改革主義理解を見直し、特に植民地当局の介入政策に対する反応として、多様な主体による改革主義があったと考えることを提起した。その後、Afaf Zekkour氏(シュレフ大学)、Kamel Chachoua氏(IREMAM)、私市正年氏(上智大学)がそれぞれ、地方と都市のイスラーム改革主義、親フランス的改革主義、スーフィー教団のナショナリズムに関する報告を行い、二元論では想定されていなかったこれらの現象を積極的に分析するべきことを提言した。 また、モロッコのラバトにて2018年6月29日に行われたワークショップ「マグリブにおけるイスラーム知識人:18-21世紀」にて、研究報告「ムハンマド・アル=ファースィー(1908-91)と保護領期の知の再編成」を行い、モロッコ保護領期におけるフランスの東洋学研究が、イスラーム改革主義者やナショナリストの思想と言説の形成に大きな影響を与えたことを論じた。
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