研究課題/領域番号 |
16K16929
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
小坂 俊介 東北大学, 文学研究科, 助教 (10711301)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 後期ローマ帝国 / ローマ皇帝 / 内乱 / コンスタンティヌス朝 / ウァレンティニアヌス朝 / テオドシウス朝 |
研究実績の概要 |
本研究は、紀元後4~5世紀のローマ帝国における内乱とその戦後処理に注目し、皇帝権力がどのようにして帝国支配の秩序を回復しようとしたのかを解明し、個別事例の分析から得られた成果を通時的に比較考察することによって、皇帝権力の変容過程を解明しようとするものである。 今年度はまず、4世紀半ばの皇帝であり、自らが上位の皇帝に反乱を起こしたのち、単独支配者となったユリアヌス(正帝在位360~363年)の政治的活動およびそれに対する同時代人の認識を明らかにすることに努めた。特に、歴史家アンミアヌス・マルケリヌスの著作『歴史』を中心に、弁論家・修辞学教師リバニオスの『ユリアヌス帝追悼演説』、ナジアンゾス司教グレゴリオスの『ユリアヌス駁論』との比較を通じて、『歴史』の史料的特質を探ると共に、ユリアヌスの政治的業績を明らかにするべく努めた。この作業の結果、ユリアヌス帝に関する評価において、従来はアンミアヌスとリバニオスは好意的、グレゴリオスは否定的と捉えられていたのに対し、アンミアヌスとリバニオスの相違点、アンミアヌスとグレゴリオスとの共通点を見出し、単純な二項対立ではない複雑な様相が確認された。これらの成果をまずは国際学会にて報告し、そこで質疑応答を踏まえて内容を批判的に発展させた成果を国内学会で報告した。 2017年3月にはオックスフォード大学ウェストン図書館・サックラー図書館にて資料調査を実施し、R. S. O. Tomlinの未公刊の博士論文"The Emperor Valentinian I"を閲覧することができた。本博士論文は様々な研究書において重要な基礎研究として紹介されており、ウァレンティニアヌス朝期の政治史研究においてその参照は必須である。この閲覧作業により、本博士論文の研究史上の重要性、およびウァレンティニアヌス1世治世に関する基礎的事実とその典拠とを確認することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の研究計画では、今年度はコンスタンティヌス朝・ウァレンティニアヌス朝期(337~382年)の研究を実施する予定であった。このうち、ユリアヌス帝治世に関する史料の読解を中心に研究を進めるとともに、ウァレンティニアヌス朝期をも含めた先行研究の調査を進めた点では、今年度の研究計画を達成することができた。加えて、次年度に実施する予定であったテオドシウス朝期前半(383年~423年)のうち、ホノリウス帝治世(395~423年)関連史料および先行研究の読解をも進めることができた。これは、4世紀半ばから5世紀後半にかけての政治史的展開および分析対象とする各史料の特質を、研究計画初期段階で把握するのが今後の研究実施のために得策であると判断したためである。 しかしながら、分析対象史料にナジアンゾスのグレゴリオス『ユリアヌス駁論』を追加し、それを含めたコンスタンティヌス朝期関連史料のテクスト読解および分析に予定していた以上の時間を費やした結果、ウァレンティニアヌス朝期関連史料の読解に着手することができなかった。またその結果、研究成果の公表が学会発表に留まり、文章化するに至っていない。従って、今年度の進捗状況を「やや遅れている」と自己評価する。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度着手できなかったウァレンティニアヌス朝期関連史料の読解に着手する。具体的には、アンミアヌス・マルケリヌス著『歴史』26~31巻、『テオドシウス法典』所収の法令史料、弁論家リバニオスおよび同じく弁論家であり政治家でもあったテミスティオスの弁論・書簡集を読解し、ウァレンティニアヌス朝期に生じた内乱に関する事実関係の確定、皇帝権力の対応を解明するとともに、それを正当化する理由づけを明らかにする。これらの作業を平成29年度前半に実施し、後半より、当初の研究計画に従い、テオドシウス朝期前半(383~423年)の分析を実施する。この研究計画の進捗の遅れはしかし、平成28年度にすでに関連する分析および考察を一部実施しているため、平成29年度中には取り戻せると予想している。
|