研究課題/領域番号 |
16K16929
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
小坂 俊介 立教大学, 文学部, 特別研究員(日本学術振興会) (10711301)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 後期ローマ帝国 / 古代末期 / 歴史叙述 / アンミアヌス=マルケリヌス / ローマ軍 |
研究実績の概要 |
平成29年度の研究実績の概要は以下の3点に分類される。 1.史料読解および分析、国際学会における成果発表。平成28年度の研究成果のうち、4世紀のラテン語歴史叙述作品であるアンミアヌス=マルケリヌス著『歴史』15~25巻の分析に基づき、物語の進展に伴う皇帝の側近の顔ぶれの変化が、皇帝の人物描写の変化と同時並行的に進むことを解明した部分を国際学会で報告した(4月、カリフォルニア大学サンディエゴ校)。その成果を踏まえ、同様の傾向を『歴史』26巻以降でも確認できるかどうかを確かめるべく、史料読解と分析を行なった。これらの成果をもとに、アンミアヌスが皇帝の側近をどのような存在とみなしていたのかという問いを設定し、論文の作成に取り組んだ。 2.書評の執筆。『歴史』を分析対象とする研究書の書評を執筆し、9月下旬に雑誌『西洋古典学研究』に投稿した(平成30年3月公刊)。当該研究書は『歴史』を物語論的手法で分析し、アンミアヌスの語り手としての優れた技巧を明らかにしている。書評では内容紹介に加え、分析対象記述の選定に関わる問題点を指摘した。 3.古代世界研究会主催の国際学会、日韓中西洋古代史シンポジウム(平成29年9月、早稲田大学)におけるKee-Hyun Ban氏報告へのコメントを担当した。当該報告は後3世紀ローマ帝国の政治史研究であり、その点で本研究計画と深く関わるものであった。コメントでは3世紀後半の各皇帝治世の歴史的意義、後期ローマ軍制における重装歩兵の重要さの程度、後代のアルメニア語史書におけるローマ帝国観の三論点を提起し、報告者およびフロアと議論を交わした。こうした意見交換を通じ、帝国の外交政策という視角を得られた点が本研究計画にとって特に有益な成果であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の計画では、平成29年度前半にウァレンティニアヌス朝期(364~392年)関連史料、具体的にはアンミアヌス・マルケリヌス著『歴史』26~31巻、『テオドシウス法典』所収の法令史料、弁論家リバニオスおよび同じく弁論家であり政治家でもあったテミスティオスの弁論・書簡集の読解および分析に基づき、当該時期の政治史再構成の作業を進める予定であった。しかしながら、主史料であるアンミアヌス=マルケリヌス『歴史』の資料読解および分析に時間がかかったため、当初読解を予定していた史料群の分析を実施することがほとんどできなかった。そのため、平成29年度後半に予定していたテオドシウス朝期(383~423年)前半に関する調査研究も実施できていない。 研究の進捗が遅れているのは、『歴史』に関する研究書の書評執筆に時間を費やすこととなったためでもある。同書が歴史学ではなく、文学批評の一手法である物語論を用いて『歴史』を分析する研究成果であったことから、文学批評の手法およびその西洋古典学、特に歴史叙述作品への応用に関連する研究史を調査する必要が生じ、これに研究時間を割くこととなった。
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今後の研究の推進方策 |
上述のような研究の遅れを取り戻すために、以下のような推進方策を定める。 研究代表者は平成29年11月下旬より英国・オックスフォード大学を拠点とし在外研究を実施しており、同大学ボドリアン図書館での資料調査において、2013年に同大学に提出されたAdrastos Omissi氏の博士論文が、本研究計画と同様の研究目的および方法に基づく研究成果であることが判明した。また本博士論文は近々研究書として公刊予定とされている(2018年6月出版予定、academia.eduの同氏ホームページおよび出版社ホームページより)。同書は本研究計画にとって極めて重要な先行研究となることが予期されるため、同書が出版され次第、特に称賛演説史料の分析成果に注目して参照する。その上で、本研究計画が同書と比較していかなる点に独自性を持ちうるのかを再考する必要があるため、研究計画を練り直す。 以上を前提としてあくまで現段階で立てうる見通しとして、次のような作業を予定している。平成30年度には、平成29年度後半に実施予定だったテオドシウス朝期前半に関する史料のうち、歴史叙述、法令、碑文、書簡史料の読解および分析に努める。称賛演説史料に関しては上述のように最新の研究成果が公刊され次第、その批判的検討を行なう。史料の分析にあたっては、第一に事実関係の詳細な再構成に重点を置くが、特に内乱で結果的に敗者の側に加担することとなったローマ市元老院身分の人々が、当該時期の政治史的展開においていかなる役割を果たし、またいかなる変容を被ったのかを解明する。平成30年12月には日本への帰国を予定しているため、それまでに可能な限り関連史料および研究文献の読解を進め、平成31年1月から平成31年度にかけて、それらの成果をまとめて発表する作業を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度分として交付決定がなされた直接経費のうち、物品費(主に書籍代)に充てる予定であった額を次年度に繰り越すこととした。これは研究代表者が平成29年11月よりオックスフォード大学古典学部の客員研究員として英国に滞在し、同大学ボドリアン図書館およびサックラー図書館を拠点として研究を遂行することにより、在外研究中の書籍購入が不要となったためである。 繰り越した次年度使用額は主に在外研究の旅費に充て、また帰国後に物品費(書籍代)として使用する予定である。
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備考 |
公開講演「古代ローマの教育と社会 -弁論術の社会的重要性-」(東北大学西洋史研究室同窓会研究懇話会、2017年9月)
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