研究課題/領域番号 |
16K16929
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
小坂 俊介 立教大学, 文学部, 特別研究員(日本学術振興会) (10711301)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ローマ帝国 / 古代末期 / 内乱 / 称賛演説 / ローマ |
研究実績の概要 |
今年度は昨年度に引き続きオックスフォード大学古典学部客員研究員として英国に滞在し、同大学ボドリアン図書館所蔵の史資料を利用しつつ主に二つの作業に重点的に取り組んだ。 (1)A.Omissi, Emperors and Usurpers in the Later Roman Empireの批判的読解:昨年度までの研究調査によって今年度中の出版が判明していたA. Omissi氏の博士論文を批判的に読解し、その研究成果の理解に努めた。 (2)4世紀後半~5世紀都市ローマおよびローマ元老院に関する近年の政治史研究の進展の把握:前年度までの研究で明らかとなった、内乱における都市ローマおよびローマ元老院の政治的意義の解明のために、ローマ元老院の政治的動向・権力、都市ローマの政治的地位に関する先行研究の把握に努めた。それらの作業を通じて、特に1990年代以降の英米学界においてそれらの政治的意義を見直す潮流があることが判明した。 (3)ローマ元老院議員のプロソポグラフィ(人物誌・人物同定法)研究:(2)の研究成果から、4世紀ローマ帝国の内乱におけるローマ元老院の政治的活動を解明するには元老院という政治的組織を集団的ではなく、個々の構成員に注目して分析する必要性が浮かび上がってきたため、個々の元老院議員の経歴・人間関係をプロソポグラフィ研究の成果に基づき網羅的に把握することを試みた。ここでは本科研研究計画の主史料の一つであるアンミアヌス=マルケリヌスのラテン語歴史叙述作品に言及される人物に対象を限定し、そのリストアップと人間関係の再構成に努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度はテオドシウス朝期(379~430年代)までの帝国の政治・行政史に関する先行研究の把握と読解、プロソポグラフィ研究に基づく同時代人の経歴・政治活動の全般的把握、称賛演説の史料的性格の解明といった点で研究の進展を見た。特に「研究実績の概要」で記述したように、A. Omissi氏の研究成果から称賛演説史料の解釈方法と帝政後期における内乱後の政治プロパガンダに関する知見を得られたことは、本研究課題の進展において重要な成果であった。他方で、当初の計画では今年度までにテオドシウス朝期後半から西ローマ皇帝権の消失(424~476 年)までの時期を対象に文学・法令史料の分析を実施するはずであったが、その着手には至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究実績において記載した作業行程より、以下のような研究の推進方策を執ることで研究の進展が見込まれる。 (1)Omissi氏の研究成果は本科研研究計画に対し極めて有益な情報を提供しており、同書の到達点に対し補足すべき事柄の発見・考察が研究の進展にとって有益である。具体的には同書が試みた事実関係の挑戦的再構成が妥当か否かの検証、また同書の考察範囲外に置かれた戦後処理の事実関係の再構成である。 (2)近年の研究史における4世紀後半~5世紀都市ローマおよびローマ元老院の政治的意義の見直しを受けて、帝国政治史を主たるトピックとする本科研研究計画においても、ローマ元老院の政治的動向および都市ローマの政治史的意義に注意することで、従来説とは異なる解釈の可能性が予想される。 (3)次年度が本科研研究計画の最終年度となるため、これまでの進捗状況の遅れを少しでも取り戻し早期に研究成果を公にできるよう、考察すべき時期・対象とする内乱を限定する。さらに上述の称賛演説の成果を利用しつつそれを補うべく、分析対象史料を歴史叙述・法令・碑文・書簡史料とし、内乱の戦後処理の事実関係の把握・再構成に改めて努める。より具体的には、テオドシウス帝支配期(379年~395年)に帝国西部にて生じた二つの内乱を昨年度に引き続き対象として、皇帝権力によるその戦後処理を歴史叙述・法令・碑文史料から、それらに対するローマ元老院議員および地方名望家等の帝国支配層の対応を書簡史料から解明することを試みる。
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