本研究の目的は、後期ローマ帝国の内乱とその戦後処理に注目し,皇帝権力がどのようにして帝国支配の秩序を回復しようとしたのかを解明することであった。研究では紀元後4世紀から5世紀のギリシア語・ラテン語文献史料および、同時代に発布され5世紀以降に編纂された法令史料を主たる分析対象とした。 事業期間全体を通じて、文献史料のうち、内乱の事実関係検証のために歴史叙述を、他方で皇帝権力による戦後処理方針およびその理由付けの検討のために称賛演説を読解・分析した。期間中には本研究課題と同様のテーマでの研究書が公刊されたため、その成果の批判的摂取に努めた。 また、ローマ帝政後期に発布された法令史料を読解し、内乱の勝者が敗者による従前の法的・政治的決定を無効化する基準を探った。3世紀初頭から5世紀までの帝国で発布された法令を収録した『テオドシウス法典』から、内乱後の戦後処理を扱う法令を網羅的に抽出し読解した。その結果、奴隷解放や私的契約に類する決定と、官職獲得や免税特権の付与といった政治的行為において戦後処理の方針が異なることを発見した。加えて各法令の作成背景を探るべく、ケーススタディとして関連史料が比較的豊富に遺る5世紀初頭北アフリカに注目した。史料読解と考察の結果、4・5世紀の北アフリカで生じた教会内紛争を背景に、カトリック側が皇帝権力から有利な裁定を得るべく、彼らの敵対陣営を内乱の敗者との政治的連帯を理由として非難し、その帰結が内乱の戦後処理として具体化したことを解明した。 以上のような成果は、未だ研究の乏しいローマ帝政期の内乱というテーマに基礎的情報を提供しうる点に意義を認め得る。本研究で得られた知見の一部は書評の形で公刊されており、また2020年には国際学会での成果報告が決定している。
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